大山淳子さんの小説で人気シリーズ「あずかりやさん」の第3弾になる「あずかりやさん~彼女の青い鳥~」ポプラ文庫は、2019年5月5日第1刷発行です。ベストセラーになっているあずかりやさんシリーズ続編第3弾の本作は、単行本と文庫が同時に刊行されました。栃木のうさぎや書店さんによるオリジナルカバーも健在です。この記事では、「あずかりやさん~彼女の青い鳥~」のあらすじをネタバレありで紹介します。
あずかりやさんシリーズについて
「あずかりやさん」は、2024年6月現在、第5弾まで続編が出ている、大山淳子さんの人気シリーズ小説です。
あずかりやさんシリーズの読む順番や、あずかりやさんとはどんな物語なのかについては、以下の記事をご覧ください。
第1話 ねこふんじゃった
「ねこふんじゃった」の語り手は、なんとノミ。
あずかりやさんの白い猫・社長の体にいるノミなのです。
ノミは、自分のことを社長の側近だと言い、あずかりやさんの店主である桐島透とは同僚だと思っています。
桐島透は目が見えないため、ノミの存在には気づいていません。
桐島透青年は、毎日毎日丁寧に掃除をするので、運のいいノミしか生き残れず、基本的にお店はとても清潔です。
ある日、小さな娘・ゆっことその母親がお店にやってきました。
母親は、以前あずかりやさんを利用したことがあって、その話をゆっこちゃんにすると、ゆっこちゃんもあずけてみたいと言い出したそう。
あずけるのはキリンのぬいぐるみ・エリザベス。
ところが、この母娘にとって、このキリンのぬいぐるみをあずけるのは、あくまでごっこ遊びだったのでした。
「一日百円で、何でもお預かりします」というこのお店に、3日あずけるための300円を、おはじきで払いました。
これに腹を立てたのはノミ。
あずかるというのは、あずかりやさんにとっての労働であるのに、それに対して代金を払わないとはなんてことだ!
ノミは、おしおきをしてやろうと、社長の体からキリンのぬいぐるみにジャンプ!
これに驚いた母親は、あずかりやさんを不潔な店とし、キリンのぬいぐるみも処分するように言って帰ります。
ゆっこちゃんは悲しみますが、母親は譲りません。
桐島青年は謝罪し、残されたぬいぐるみを丁寧に洗いました。
その後、あずかりやさんには全くお客さんが来なくなります。
そう、原因はノミがいるという噂。
それを知らせてくれたのは、予想はついていましたが、あずかりやさんシリーズのレギュラー登場人物・相沢さん。
相沢さんについてはあずかりやさんシリーズ第1弾「あずかりやさん」をどうぞ。
そして相沢さんは、ノミ退治の薬を置いていきます。
ノミは自分の行動が招いた事態を後悔し、死んでしまうのもやむなしと覚悟を決めます。
そこへやってきたのは、ゆっこちゃんの父親。
ゆっこちゃんの両親は、離婚していました。
キリンのぬいぐるみは、父親からゆっこちゃんへのプレゼント。
ゆっこちゃんのためにぬいぐるみを引き取りに来たのでした。
ゆっこちゃんの父親と、店主・桐島透のやりとりを読むと、桐島青年の自分の商売に対する熱い思いと、深い思いやりと、若いのに苦労を重ねたせいなのか、懐の大きさを感じます。
ふたりのやり取りと、ノミのその後は、ぜひ実際に読んでみてください。
なぜ、このお話のタイトルが「ねこふんじゃった」なのかもわかります。
第2話 スーパーボール
私はこの本の中で、この第2話「スーパーボール」がとても好きです。
語り手は、女性のようですが誰なのかわからないまま、その女性が「お姉ちゃん」に語りかけるようにお話が進んでいきます。
女性は、100円均一のお店で毎日3つだけ買う、ということを自分の法律にしていて、明日町こんぺいとう商店街にある100円均一のお店・にこにこ堂が一番お気に入りでした。
でも、毎日にこにこ堂に来て3つだけ買うことを繰り返したら目立ってしまいます。その女性は目立ちたくなかったので、ほかのお店とローテーションでまわっていました。
その日もにこにこ堂にやってきて、黄色いものばかり5つ選び、4つに絞り、最後に黄色のスーパーボールを棚に返そうとしたとき、そのスーパーボールが跳ねてしまって目立ち、恥ずかしくなった女性はそのまま4つ買ってしまいます。
でも後悔して、やっぱり3つにしようと思い、店員さんに明日まであずがってもらおうとして初めて、にこにこ堂が今日で閉店するというお知らせに気付きます。
親切な店員さんは、申し訳なさそうに「返品になさいますか?」と聞いてくれます。
大好きだったにこにこ堂閉店で、こんなことなら毎日にこにこ堂に通えばよかったと後悔し、そんなにこにこ堂に返品などできない、と思う女性に、店員さんは明日町こんぺいとう商店街の奥にあるあずかりやさんのことを教えます。
女性は早速あずかりやさんに向かいました。そこには先客がいました。高価な腕時計をあずけるその先客の名前は、桜原さとみさん。
ここで読者は、おや?と気づきます。この桜原さとみさんは、第1話でも登場しており、店主の桐島青年と4時間も雑談をしていったひとです。どうやら常連のようです。
さて、女性の番です。
黄色のスーパーボールだけをあずけるつもりが、桜原さとみさんの高価な腕時計を見た手前、4つともあずけるながれになりました。そして並んだ4つを見ると、どれも本当に欲しいものではないと気付きます。
そんな女性に桐島青年は、あずかりやさんのシステムを説明します。あずけたまま引き取りに来ないお客さんがいると聞いた女性は驚き、このまま捨ててもいいし、欲しいと思ったら明日取りにくればいいと、1日分の100円を支払います。
そして名前を名乗ろうとしたとき、女性は自分の名前が思い出せません。お姉ちゃん、わたしの名前はなんだっけ。
すると、店主・桐島透が遠慮がちに言うのです。
「遠藤ヨシノさんですね?」
その女性、遠藤ヨシノさんは、あずかりやさんに前にも来たことがあるのでした。しかし本人は覚えていません。ここで、ヨシノさん本人も読者も、ヨシノさんがおばあさんなのだとわかります。
その日から、ヨシノさんの100円均一のお店通いはなくなり、代わりにあずかりやさん通いが始まります。
帰宅したヨシノさんは、自宅の状態にびっくりします。100円均一グッズであふれかえっているのです。
ヨシノさんは、それらを袋につめてあずかりやさんに持って行き、100円であずけて翌日は受け取らない、というのを繰り返し、100円グッズたちをすべて処分し、続けて押し入れに入っていた未開封の高級ブランドの品々も持って行きました。
ヨシノさんはふと、あることに気付きます。
100円グッズに関しては、うっすらと記憶があるのに、押し入れに山のように積まれた高級ブランドの買い物をした記憶は全然ないのです。
そして急にヨシノさんはお姉ちゃんのセリフを思い出します。
「どうしてこんなものが必要なの?どうして働いてもいないのにこんなに買うの?わたしのお給料は湧いてくるわけではないんだよ」
「破産だよ、もう何も買えないから」
「ヨシちゃん、ちょっと行ってくるね」
「あずかりやさん~彼女の青い鳥~」大山淳子・ポプラ文庫より
怒って泣いたお姉ちゃん、自分も謝ったけど、やめられない買い物依存症がお姉ちゃんを追い詰め、お姉ちゃんは出て行ってしまったのだ。
そして自分は、買い物は100円均一のお店で1日3つまでと決めて、いろいろな不都合なことを忘れてやってきたのだ。
ヨシノさんは、過去を思い出すために、あずかりやさんの店主・桐島透を頼ることにしました。
自分が初めてあずかりやさんに来た時のことを教えてもらいにお店へ行きます。
もちろん、桐島青年は覚えていました。
ヨシノさんが初めて来たのは、あずかりやさん開店間もない13年前。それ以降、スーパーボールの日まで来ていないと。
あずけたのは封筒で、切手が貼ってあったからおそらく手紙だけれど、自分は見えないからわからないと。
1か月分のあずかり賃を支払ったけれど、受け取りに来なかったと。
そこまでの情報しか得られませんでしたが、ヨシノさんは、あきらめがつきました。
そして、今まで本当にたくさんのものを引き取ってもらったと桐島青年に感謝します。
すると、桐島青年はお茶を淹れると奥に下がり、なんとずっと保管していたヨシノさんの封筒を持ってきたのです。
それは、お姉ちゃんからヨシノさんへの手紙でした。
そして店を閉めて、自分は出かけるからゆっくりどうぞとヨシノさんに手紙と向き合う場を提供します。
桐島青年が杖を持って出た後、ヨシノさんは封を開けます。
そこにはお姉ちゃんの「ごめんなさいの気持ち」が綴られていました。
なぜお姉ちゃんがごめんなさいなのか、出て行ったお姉ちゃんはどうしているのか、ヨシノさんが忘れてしまっていることは何なのか、続きは本を読んでみてください。
第3話 青い鳥
「あずかりやさん~彼女の青い鳥~」には、プロローグもエピローグもない分、この第3話がその役割をしているような感じで、わずか11ページのお話です。
語り手は、ハナミズキにとまって鳴いている、ルリビタキという青い鳥。ハナミズキは、通りを挟んであずかりやさんの前に咲いています。
青い鳥は、いつも自分の歌を聴いてくれる桐島青年のために歌うのだけれど、ここ数日店は閉まっています。
そこへひとりのセーラー服を着た女の子がやってきますが、お店が閉まっていたので、店の前にしゃがみこんで待つことに。
そこへ現れたのは相沢さん。しゃがみこんでいる女の子にあきれながらも、桐島青年からあずかった鍵で店を開け、彼女を入れてやります。
そして事情があって数日店を閉めているけれど、あさってには店主がもどると教えてくれます。
相沢さんは、桐島青年の留守の間、猫の社長の世話を頼まれていたのでした。
そこで、青い鳥に気づいていた女の子は相沢さんに鳥のことを話します。
すると、相沢さんは以前鳥の図鑑を点訳したので、その鳥がルリビタキと知っており、青いのはオスであざやかな青になると寿命なんだと女の子に教えます。
女の子は「死にそうにないよ」と信じないで青い鳥に見惚れ、青い鳥はあさってを楽しみに泣き続けます。
そこで第3話は終わります。
第4話 かちかちかっちゃん
このお話の語り手は、小説家・里田ぬるまの手書きの原稿。
里田ぬるまの芥川賞受賞でインタビューされているシーンから始まります。ちょっと、「あずかりやさん~桐島くんの青春~」に登場する、あずかりやさんの文机の元の持ち主・あくりゅうを思い出しました。
そのインタビューで、受賞の報告を誰にしたいかと問われ、里田は「青年Aに」と答えます。
ご想像の通り、青年Aはあずかりやさんの店主・桐島透青年です。
語り手である原稿は、里田がデビュー前に書いてコンクールに応募して落選した原稿でした。
里田はジャンルにこだわらず、とにかく物書きを目指して書き続け、ミステリーで新人賞を取ってデビューしました。以来、30年ミステリーを書き続けていますが、あまり売れていません。
今残っているのは「刑事あめんぼ」シリーズだけです。
その新作を書くようにと、10年里田を担当する編集者の女性・山下は急かしています。その山下に、里田は「美人でブス」と言う意味の「BB」というあだ名をつけています。顔は美人でメンタルがブス、という意味でしたが、里田も原稿も、BBを「できる女」と認めており、それまでの編集者とは違う特別な存在でした。
そのBBに、里田は原稿を突き出します。ところがBBは読もうともしません。
それは、編集者の間で、その原稿「かちかちかっちゃん」は、里田の書けませんでしたという白旗なのだと有名だったからです。
でも本当は違いました。
語り手である原稿「かちかちかっちゃん」は、里田が少しずつ手を加え直していった大事な思い入れのある作品で、ミステリーではない、『父親』にまつわる物語でした。
BBと別れた里田がパチンコ屋を探す途中、雨が降り始め、雨宿りに立ち寄ったのがあずかりやさんでした。
里田は自分が小説家・里田ぬるまとは言わないまま、桐島青年の読んでいた点字本のエッセイについて語り合います。
そこへ、中学生くらいの少年が駆け込んできました。
試験前で部活が休みになるから、勉強途中の息抜きになるかと買った本が、おもしろすぎて勉強にならないから、試験が終わるまであずかってほしいと言います。
その本が、なんと里田の「刑事あめんぼ 大阪へ行く」だったのです。
原稿は思います。
お前が俺に自信を持たないから編集者は白旗と思うのだ、俺に自信を持て、と。
里田は、自分が里田ぬるまなのに、それを隠して桐島青年に里田ぬるまの作品のことを聞きます。
桐島青年は、刑事あめんぼは知らないが、初期のものは読んだと言い、年齢に関係なく楽しめると答えます。
桐島青年の特におすすめが「鳩のミッション」という物語で、惹かれた点を話します。
鼻をすすった里田を心配して、あたたかい飲み物を持ってくると桐島青年が奥へ入った時、店にやってきたのはあの桜原さとみさん。また来ました。そして、里田に店主に渡すように言って置いていったのはうなぎ弁当二人分で、冷める前に食べたほうがいいと言って帰ります。
もどった桐島青年は、うなぎ弁当に100円が添えられているのを確認してため息をつきます。
実は桜原さとみさんは、今までも何度もいろいろな高級品をあずけては引き取らないのを繰り返しており、いわばうなぎ弁当は桐島青年への差し入れなのでした。
本来は、次の日になって引き取りに来ないのを待って初めてそのあずかり品の所有権は桐島青年のものになるのですが、食べ物の場合は捨てるしかなく、今までの桜原さとみさんのことを思うに引き取りに来ないのは確実です。
悩んだ桐島青年は、里田に「一緒に食べていただけますか」と誘い、里田は喜んで一緒に食べたのでした。
食べながら、桐島青年は、そう言えば里田ぬるまの物語には父親の存在がありません、里田ぬるまの書く父親を読んでみたいと言います。
すると、里田は原稿を桐島青年にあずけようとし、あずける前に、原稿(桐島青年にとっては紙の束)の内容について語りだします。
そして、里田は、原稿に書かれた物語を聞く桐島青年が涙ぐんでいるのに気付きます。
桐島青年は、「申し訳ありませんが、これはおあずかりできません」とつぶやきました。
里田は店を出ると、何の言葉も添えずに、原稿をBBに郵送します。
するとさすがBB、きちんと原稿を読み、会社に掛け合うも認められずになんと、ライバル社に原稿を持ち込み、冒頭の芥川賞受賞となったのでした。
BBは退社することになりましたが・・・BBのその後を語る原稿の素敵な文章が最高です。
里田があずかりやさんで語った内容や、BBについては、ぜひ読んでみてください。
第5話 彼女の犯行
最終話は盛り沢山です。
語り手は、あずかりやさんの振り子の柱時計。桐島青年の父親が誕生した時に贈られた品で、和菓子屋時代からいます。
この柱時計が壊れてしまい、修理に出されているところから始まるのですが、柱時計があずかりやさんにもどると、なんとそこにはスタイリッシュなドイツの老舗ブランドの時計がかかっているではありませんか。
ショックを受ける柱時計ですが、そのドイツの時計は警察官が証拠品として持って行き、柱時計はもとの位置にもどることができました。
実はドイツの時計は盗難されたものだったというのです。それはあずかった品。あずけたお客さんはあの桜原さとみさんです。
警察沙汰ということで、柱時計は3年前のできごとを思い出します。
それは第1話で登場したゆっこちゃん母子がやってきた時のこと。かつてゆっこちゃんのお母さんは、ゆっこちゃんをあずかりやさんにあずけたことがありました。
3時ごろにやってきて、ちょっとの間あずかってほしい、買い物に行くとあずけたのに、6時になってももどりません。
事情を聴いた相沢さんは、警察に届けましょうと桐島青年に言いますが、桐島青年は8時まで待ちたいと言います。
でも相沢さんは、女の子を一人暮らしの男性があずかっていたりしたら疑われてしまう、と8時まで一緒にいてくれます。
そしてとうとう8時、警察に行こうと思った時、お母さんが現れました。疲れ切った顔で「ゆっこ、ごめんね。住む家が見つかった」と。
この一件は、第1話でゆっこちゃんのお父さんが怒る原因にもなっています。
そして、ドイツの時計の件は、桜原さとみは偽名でした。ドイツの時計はとても高価なもの。
警察の取り調べのため、あずかりやさんはしばらく店を閉めることになりました。
実は第3話の青い鳥で、あずかりやさんが閉まっていたのはこの時のことだったのです。
桐島青年は警察の取り調べにきちんと応じましたが、その後、時計の持ち主が盗難届けを取り下げ、捜査終了。
そして、あの青い鳥を見ていたセーラー服の女の子がやってきます。相沢さんが言ったあさってではなく、2週間後に現れました。
切手の貼られた薄ピンクの封筒を、半年あずけたいと言います。
そして、半年後に自分が取りに来なかったらポストに投函して欲しいと。
女の子の名前は一ノ瀬はずみちゃん。その封筒はラブレターです。
はずみちゃんは、明るく元気な子ですが、5歳まで生きられないと言われていました。それでも15歳まで生きることができたのに、病気が再発し、治療が必要になってしまったのです。
告白してふられるのは怖いけど、死んでしまえば怖いものなし、なによりその気持ちを残したくなったのです。
はずみちゃんの読みでは、半年後には結果が出るから、それまであずかってほしいと。ラブレターとはいっても、付き合ってほしいとかではなく、ただ気持ちを綴ったものだから、死んでしまったらポストに入れてほしいという願いでした。
桐島青年は、ポストに投函する未来はありません、お待ちしていますと言って、帰るはずみちゃんを祈るように送り出します。
このはずみちゃんのその後は、続編である「あずかりやさん~まぼろしチャーハン~」の第1話ラブレターで読むことができます。
その後、あずかりやさんに本物の桜原さとみさんが現れます。
そして、あの偽の桜原さとみさんの正体もわかります。
また、柱時計が「ドイツ野郎」と呼んでいたスタイリッシュなドイツの時計は、なんと相沢さんのもとへ行くことに。
どうしてそうなったのかは、ぜひ実際に本を手に取って読んでみてください。
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