大山淳子さんの小説「あずかりやさん」シリーズ第5弾、満天の星は2024年1月5日発行(ポプラ文庫)です。例によって栃木の本屋「うさぎや」さんオリジナルカバーも健在の文庫版を購入しました。今回は、カバーを外した本体の藤原徹司さんのイラストによる表紙も注目です。
あずかりやさんシリーズについて
栃木にある本屋さんの「うさぎや」さん猛プッシュにより人気が出たあずかりやさんシリーズは、「猫弁」シリーズなどで知られる大山淳子さんの小説です。
そのあずかりやさん5作目「満天の星」のオリジナルカバーはこちら。
物語に登場するアイテムがあしらわれたあたたかい色調の、かわいいカバーです。
あずかりやさんは、目は見えないけれど、抜群の記憶力と耳を持つ背の高いイケメン・桐島透が店主の、「一日百円で、なんでもおあずかりします」という、明日町こんぺいとう商店街にあるお店です。
そこへ何かをあずけにやってくるひとにまつわるハートフルなお話がつまっています。
あずかりやさんシリーズの読む順番や、あずかりやさんとはどんな物語なのかについては、以下の記事をご覧ください。
あずかりやさんに預けてみよう!キャンペーン
あずかりやさん5作目の「満天の星」は、『あずかりやさんに預けてみよう!キャンペーン』で募集した、読者が預けてみたいものが登場しています。
作者の大山淳子さんのあとがきによると、登場人物やエピソードは創作とのことですが、自分の預けたいものが登場したらうれしいですよね。
「満天の星」は、プロローグから始まり、4つの物語が読めます。
プロローグ
プロローグは、「あずかりやさんへ」から始まり、「花」で終わる、短い手紙になっています。
花って誰??
ずっとあずかりやさんシリーズを読んでいますが記憶にない。
気になって、1巻からざっと読みなおしたのですが「花」が見つからないのです。見落としてるのか??
この「満天の星」に登場する人物かもしれないということで読み進めました。
第1話 金魚
第1話は、あずかりやさんシリーズにはめずらしく物騒な始まりです。
文頭が「ぶっ殺してやる」ですから。
第1話の語り手は、この物騒なことを考えている男が持つ万能ナイフ。
万能ナイフが言うには、この男は二十歳かそこらの若者なのに、苦労ばかりで老けて見える孤独な人物。
さんざん暴力をふるって生きてきたけれど、その何倍もの暴力を受けていて、とにかく不運な男。
その男が怒りをぶつける対象を探して、真夜中にやってきたのが明日町こんぺいとう商店街のあずかりやさんです。
鍵のかかっていなかった真っ暗な店内に入り込み、誰もいないと思って金目のものを漁りますが、実は桐島青年はその真っ暗な部屋で読書をしていました。
目の見えない彼には明かりは関係ないのです。
男は万能ナイフを桐島青年につきつけ脅しますが、桐島青年は常に冷静な反応で、男は戸惑います。
そして男は桐島青年に電気をつけさせ、そこで初めて桐島青年が盲目だと気付きます。
そのあと桐島青年がしたことは、「お話をうかがいましょう」と男に言って、男のためにハーブティーを淹れたということ。
このハーブは、あずかりやさんシリーズレギュラー登場人物の相沢さんが育てたハーブのお裾分け。
丁寧にハーブティーを淹れだした桐島青年を見て、初めての経験に戸惑う男と相棒の万能ナイフは、「異世界の扉を開けてしまった」と思うのでした。
ここで万能ナイフが桐島青年について思うことがあります。以下満天の星より引用です。
男の住む世界では、おだやかに話す人間は弱いと決まっている。しかし目の前の物静かな青年は弱者に見えない。男が青年を刺すのは簡単だし、ぼこぼこに殴ることもできるが、踏みつけても一生勝てない、そのような強さを感じる。
この桐島青年についての万能ナイフの見立てが本当に良くて、今までのあずかりやさんシリーズ4作品を読む中で、桐島青年という人物のすごさは本当に伝わっているのだけれど、この強さとともにある彼の優しさが、このあずかりやさんシリーズの魅力だなと思っています。
桐島青年の不思議な魅力で、ハーブティーを飲んだ男は素直にうまいと言い、「俺の手の甲には金魚がいる」と、それまでの生い立ちを桐島青年に語りだすのでした。
桐島青年の優しい誠実な対応と、あずかりやさんシリーズレギュラーの白猫・社長、オルゴールたちに囲まれて、男は涙をこぼします。
私もうるっときてしまうお話でした。最後はせつない終わりですが、その名前もわからない男が桐島青年と出会えたことは、本当に幸せなことだったなと思います。
詳しく知りたい方はぜひ読んでみてください。
第2話 太郎パン
第2話の語り手は、なんとやきそばパン。食べ物です。
明日町こんぺいとう商店街にある、太郎パンという古いお店で売られているやきそばパンです。
やきそばパンは、自分が売れ残って廃棄されるのだけは避けたくて、早く誰かに選ばれて買われて食べられることを願っています。
ところが兄弟たちがどんどん買われていく中、彼はずっと選ばれないまま。
その最大の理由を、太郎パンの店主である親父の同級生の爺さんが言ったことで知ります。
やきそばパンに本来乗せられる紅生姜が足らなくて、そのやきそばパンには福神漬けが乗せられていたのです。
ショックを受けるやきそばパン。
ちなみに、この親父と爺さんの会話はほろりとさせられる内容でおすすめです。
結局売れ残って、ほかの売れ残りのパンたちとともに袋にまとめられて特価シールを貼られたやきそばパン。
その特価の袋を買ってくれた紳士は吉住守さんでした。
ところがこのやきそばパンはその後、あずかりやさんにあずけられてしまうのです。
なぜあずけられてしまうのか。やきそばパンの運命は?
この2話では、あのあずかりやさんの黒電話が鳴り、懐かしい桐島青年の友人のあのひとが。
この黒電話については、「あずかりやさん~まぼろしチャーハン~」第2話ツキノワグマで語り手をしているのが黒電話です。
以下の記事でどうぞ。
そして母子手帳をあずけに来る女性も。この女性は次の第3話で登場します。
そして相沢さん登場。
やきそばパンとともに最後まで読んでみてください。
第3話 ルイの涙
第3話の語り手は、第2話で母子手帳をあずけに来た西浜あかりさんの抱いていたマルチーズの男の子・ルイです。
ルイにとってあかりさんはママです。そしてあかりさんの夫・慶樹さんがパパ。
あかりさん夫婦は子宝に恵まれず、不妊治療をして2度妊娠したものの、その2度とも赤ちゃんは生まれることができませんでした。
辛くて不妊治療をやめたあかりさん夫婦がペットショップで見つけたのがルイ。
ルイのおかげで元気を取り戻したあかりさん。ルイは夫婦の息子でした。
そんなルイは、自分の仕事は
- ママを待つこと
- ママを笑顔にすること
- ママの涙を拭いてあげること
だと思っています。
そしてあかりさんは40歳になりました。
そこで予想外の妊娠判明。
40歳の妊娠は、前の妊娠で喜んでくれた周囲のひとたちも少し慎重になっていて、素直におめでとうではなく、犬を飼い続けて悪影響はないのかと言われたりします。
夫の慶樹さんは、「ルイはぼくらの長男だ」と言って手放さず、お腹の子を喜びます。
最初はそれに同意したあかりさんですが、それからルイが見るママは、少しずつおかしくなっていくのです。
2度も我が子の死を経験しているあかりさんは、どんどん不安になっていきます。つわりもありました。
それまでルイの世話をすべてやっていたのはあかりさんでした。
それをだんだん遠ざけるようになり、お風呂もヘアカットも散歩もせず、抱き着いてきたルイを突き飛ばし、ご飯も用意しなくなっていくのです。
あかりさんの異変とルイの置かれている状況にやっと気づいた慶樹さんは、夫婦で言い合いになった後、ルイに謝りながらルイの世話を自分がすることにします。
そこでルイが思った自分の新しい仕事は
- ママに近づかない
- ママとは距離を保つ
でした。せつないったらありません。ルイは変わらずママもパパも大好きなのです。
しばらくして、つわりがなくなったのでしょうか、ひさしぶりにルイの毛をママがカットし、ルイを散歩に連れ出し、行った先があずかりやさんでした。
流産した子の母子手帳は不吉だから捨てたほうがいいとひとに言われて、捨てられずにあずけにきたのです。
ルイは、次は僕が捨てられる、自分の次の任務はママと別れることだと覚悟します。
そんなママ・あかりさんは、その後ルイを連れてふたたびあずかりやさんにやってきます。
母子手帳をあずかり期限前に受け取りに来たのです。あずけるのをやめたと。
そこであかりさんは、店主・桐島青年に自分の想いを語り始めます。
そこで返す桐島青年の、あたたかい言葉の数々があかりさんを救いました。
結果を言うと、ルイには妹ができました。ルイはお兄ちゃんです。
お兄ちゃんのルイは、妹を自分が守る、育児に疲れたママの涙を舐めるのも自分だと決めるのです。
第3話はルイの健気さが何とも言えず、また桐島青年の不思議なあたたかい魅力に打ちのめされます。
桐島青年と、ルイと、ルイのママ・あかりさんとのやりとりは、ぜひ実際に読んでみてください。
第4話 シンデレラ
第4話の語り手は、なんとびっくり桐島青年の死んでしまったおじいさんです。
幽霊になって見守っているのだそう。
さとうと書かれたのれんを作ったのもおじいさんです。
こののれんは、「あずかりやさん」第1話の語り手です。詳しくは以下の記事をどうぞ。
桐島透のおじいさん
商才のあったおじいさんは、和菓子屋を繁盛させ、息子を何不自由なく育てましたが、おじいさん曰くそのせいで息子の謙虚さは育たず、客に頭を下げる商売はできないと後を継がずにサラリーマンとなります。
その息子が自分の代わりに和菓子屋を継がせると連れてきた嫁は、喘息持ちで体は弱そうだし地味な女性でしたが、おじいさんはこの嫁を気に入ります。
几帳面で裏表がなく芯が強い、誤魔化さないまっさらな性格だと、おじいさんは嫁をヒメジョオンだと例えます。
そして生まれたのが孫の桐島透でした。
おじいさん夫婦は嫁に店を任せて引退しましたが、この孫をとてもかわいがります。
でもおじいさんは同居すべきだったと後悔します。嫁は忙しすぎたと。
そしてあの事故が起こり、幼い桐島透は光を失い、そのことで嫁は自分を責め続け、ある日出て行ってしまったのです。
おじいさん夫婦はずっと透を気にかけていましたが、おばあさんが認知症になって亡くなり、まもなくおじいさんも亡くなり、透が心配なあまりおじいさんは幽霊となってお店に残ってしまったのです。
長いこと放置されていた和菓子屋だった家に、突然学校をやめて帰ってきた透は17歳。
そして始めたあずかりやさん。このことについては、「あずかりやさん~桐島くんの青春~」第4話に書かれています。
こちらの記事をどうぞ。
聞いた事も無い商売におじいさんは心配しますが、やがて、孫の透にも商才があるとわかります。
おじいさん曰く、商才の基本は「人の気持ちを推し量る」。ああ、それはもう桐島青年にはすごく、とってもある才能です!
千日ほど前のお客様・愛川さん
あずかりやさんにやってきた女性は愛川さん。
10万円で千日あずけたものを取りに来ました。それがガラスの靴。シンデレラですね。
千日も前なのにやっぱり透はちゃんと覚えているとおじいさんは感心します。
覚えていることがおもてなしだと透は考えているのではないか、とおじいさんは語るのですが、本当にずっと孫を見守ってたんだなあとわかります。
ここで女子中学生ふたりが登校前にやってきて、愛川さんはふたりに順番を譲るのですが、このふたりについては後述します。
さて、愛川さん、あずけに来た時は酔っぱらって吐いてしまったそう。それを聞いておじいさんも思い出しますが、おじいさん曰く今の愛川さんとは別人。
あずけに来た時は、きれいな格好で美人。今は活動的な格好で化粧をしていない日焼け顔。
おじいさんはあずけに来た時の愛川さんは、「お前さんよりも美しく、お前さんよりも嫌な女だった」と語ります。
そう、実際嫌な女だったのです。
ひどい雨の夜に、店じまいをしていたあずかりやさんにやってきた愛川さんは、掃除したばかりの店内に盛大に嘔吐し、酒臭さを充満させます。
親切に介抱しようとする透にもひどい対応で、おじいさんを怒らせます。幽霊なので何もできませんが。
愛川さんは散々迷惑をかけ、謝らずお礼も言わず名乗らず、10万だけ渡して箱入りのガラスの靴をあずけて出て行ったのでした。
本当はガラスの靴を割って前に進みたかった愛川さん。でも割れずにあずけにきたそう。
そこから透に話し出した愛川さんの思い出話は、古いですが「木綿のハンカチーフ」の男女逆バージョンとでもいった感じです。
高校時代につきあっていた彼は田舎で家業のガラス工房を継ぎ修行の日々、愛川さんは都会で大学生活を満喫して就職、彼はずっと愛川さんを想っていましたが愛川さんは別の人とつきあっていました。
その後の展開は、切ない気もするし、愛川さんの気持ちがわからないではないけれど、やっぱり愛川さんのしたことは良くなかった、という私の感想です。
でもそんな愛川さんを許して応援したいと思うのは、その後の愛川さんが変わったから。おじいさんが感じたようにまさに別人になったから。
そして、店主・桐島透が愛川さんにかけた言葉が素晴らしいのです。なんであんなあたたかい思いやりにあふれた言葉をかけられるのか。
そして晴れ晴れとした顔であずかりやさんを出ていく愛川さんは、女子中学生ふたりのうちひとりはあずけたものを取りに来ないかもしれないが、捨てずに必ず中を見るようにと店主に告げます。
女子中学生ふたり・花ちゃん
あずかりやさんにやってきた女子中学生ふたり、おじいさん曰くひとりはお下げ髪、ひとりはおかっぱで眼鏡。
ツインテールとかショートボブとかじゃないあたり、おじいさんですよね。
おしゃべり好きなお下げ髪の子が、愛川さんの質問に無邪気に答えるところによると、ふたりはバレンタインのチョコクッキーをあずけに来たのでした。
渡したい子がいるけど、学校には持って行くのは禁止されているから、あずかりやさんにあずけてあとから取りに来るそう。
お下げ髪の子が渡したいのは隣のクラスの学級委員の女子でみんなの人気者らしいのですが、ここでおかっぱの子が「花ちゃん」と判明します。プロローグの手紙の子です!
花ちゃんが渡したい相手は内緒。
愛川さんの読み通り、お下げ髪の子は引き取りに来ましたが、花ちゃんは来ません。
100円で1日あずかる決まりなので、透は次の日まで待つことに。
その間いろいろなお客が来ます。これらの品はキャンペーンで募集したものなのでしょうか。私も応募してみようかな。
そして夜になって。透は花ちゃんの袋を開けます。
中にはいびつなチョコレートクッキーとカードが。
カードには点字のメッセージがあります!
プロローグの手紙はこれだったのですね。
おじいさんは、孫の透の言葉を覚え、時間をかけて点字を打ち、透に寄り添ってくれた花ちゃんに感謝します。
そしてその点字が、おじいさんにはとてもきれいな満天の星のように思えました。
ゆっくりクッキーを味わい、大切にカードをしまう透を見て、おじいさんは、孫の透は光を失ってはいなかった、内なる光は輝き続ける、と思うのでした。
それを思ったおじいさんは、最後に「ようやく楽になった。明日も快晴だ。」と物語を締めくくります。
これって成仏するってことでしょうか。それともまだ見守り続けるのでしょうか。
藤原徹司さんのイラストによる表紙
あずかりやさんシリーズは、うさぎやさんのオリジナルカバーが有名ですが、もともとの表紙も素敵です。
あずかりやさんの世界が描き出されています。
今回の満天の星の表紙は、夜空をバックに屋根に上がっている白猫の社長が描かれていますが、その夜空にはちょっと周りと違う形の星が。
第4話シンデレラで、おじいさんが花ちゃんの点字を満天の星のようだと語りますが、藤原徹司さんのイラストによる表紙には、まさしく点字の星が描かれているのです。
なんと書かれているのかというと・・・『あずかりやさん』
本のタイトルでした。
次回作も楽しみです。
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