2025年直木賞にノミネートされた「ブレイクショットの軌跡」は、「同志少女よ、敵を撃て」でデビューした作家・逢坂冬馬さんによる小説です。2025年第173回直木賞は、芥川賞とともに該当作なしという結果でした。残念ながら受賞は逃したものの、「ブレイクショットの軌跡」はデビュー作を超える最高傑作だと紹介されていて、評判もよさそうなので読んでみました。ブレイクショットとは、ビリヤードの最初のショットのことですが、この物語ではSUV車の車種名になっており、そのブレイクショットの持ち主が移っていく先でのできごとを追うような構成になっています。実際にビリヤードのシーンもあり、あるひとのショットが他のボールに与える影響、ぶつかったボールがどう散っていくかというさまを、人間同士の関係や社会の在り方と合わせて表現しているかのようです。
「ブレイクショットの軌跡」目次の紹介・全体像は
「ブレイクショットの軌跡」は以下のような目次になっています。
- プロローグ
- アフリカのホワイトハウス 1
- 一章 マネー、ライフ、ゲーム
- 二章 取り柄は善良さ
- アフリカのホワイトハウス 2
- 三章 僕らの夢は
- 四章 狩り場の七面鳥
- アフリカのホワイトハウス 3
- 五章 後藤晴斗の野望
- 六章 闇から光へ
- アフリカのホワイトハウス 4
- エピローグ
早川書房公式サイトで紹介されているあらすじは以下のようになっていて、本田昴がボルトをどうするか悩む、というところまでがプロローグになっています。
底が抜けた社会の地獄で、あなたの夢は何ですか?
自動車期間工の本田昴は、Twitterの140字だけが社会とのつながりだった2年11カ月の寮生活を終えようとしていた。最終日、同僚がSUVブレイクショットのボルトをひとつ車体の内部に落とすのを目撃する。見過ごせば明日からは自由の身だが、さて……。以降、マネーゲームの狂騒、偽装修理に戸惑う板金工、悪徳不動産会社の陥穽、そしてSNSの混沌と「アフリカのホワイトハウス」――移り変わっていくブレイクショットの所有者を通して、現代日本社会の諸相と複雑なドラマが展開されていく。人間の多様性と不可解さをテーマに、9つの物語の「軌跡」を奇跡のような構成力で描き切った、『同志少女よ、敵を撃て』を超える最高傑作。
一章から六章までは、プロローグの本田昴とも違う、それぞれ別の登場人物の目線での日本の物語です。公式サイトのあらすじを読んでもわかるように、昨今問題になっている詐欺や、SNSの在り方、貧困、LGBTQなど様々な事柄が取り上げられています。
途中で差し込まれていく「アフリカのホワイトハウス」は、舞台が中央アフリカ共和国。内戦の続く情勢が不安定な国で、貧しい中、家族のために兵士になった少年の物語です。
そして最後に、ボルトをどうするかで悩んでいた本田昴にもどるエピローグへとつながります。
最初のうちは、それぞれ別の物語の短編集のような感じを受けますが、二章は一章の主人公ではない別の一章登場人物目線で物語が進み、一章とまったく同じ場面のやりとりが、別の登場人物から見るとこうだった、というのがわかります。
三章も、それまでの物語に登場していた人物目線で始まり、四章は一見関係なさそうに見える始まりですが、途中で読者が知っている人物が登場して重なっていきます。
だんだんと進むにつれ、あれ?プロローグに出てたあのひとって・・・と思ったり、アフリカのホワイトハウスってもしかして?と考察好きな読者なら存分に楽しめる伏線も張られています。
以下ネタバレ注意
プロローグ
本田昴は、「バー・レインボー」というイベントで、ある女性と出会います。
その女性に名前を聞かれて、「本田昴です」というと女性はびっくりした顔をし、さらに「自動車期間工をします。」と答えたのを聞いて、吹き出し、自分は鈴木世玲奈だと言います。
この時、たぶん私以外にも思った人がいらっしゃるでしょうが、私はこのセレナさんは偽名だなと思いました。
世玲奈さんがびっくりしたのは、「ホンダ・スバル」がどちらも自動車メーカーの名前で、さらに自動車期間工だというから吹き出して、自分もそれに倣って「スズキ・セレナ」と言ったのだろうと。
スズキは自動車メーカー名、セレナは車種名ですものね。
そんな二人の出会いと、本田昴の悩み、自動車期間工のことなどが語られ、割と長めのプロローグは最後に公式あらすじにあるボルトのシーンになります。
別の期間工仲間が、作業中にボルトをSUV車・ブレイクショットの内部に落とし、本人が気づかずにいるところを目撃した昴はどうするか。
そこでプロローグは終了。
アフリカのホワイトハウス
この物語の舞台が中央アフリカ共和国だと書かれているのを見て、私はプロローグ内で昴が見たニュースを思い出しました。
NHKのニュースで、アメリカNFLの元スター選手・コーナー・ウィルソンの息子が中央アフリカ共和国で行方不明になっているというものです。
これは何かつながるのか?という期待を込めて読みました。
『ホワイトハウス』で寝起きしている、エルヴェというたぶん17歳の少年兵士が主人公。
エルヴェの家族が住む地域を支配している武装勢力に税金が払えず、代わりにエルヴェが兵士として連れて行かれたのです。
たった13歳の頃に。
そんな国が今もあるのだと思うと複雑な気持ちになります。
そんなエルヴェが同じく少年兵で英語が使える相棒・フェリックスとともに武装勢力から与えられて生活の場としているのが1台のある車。
その車が『ホワイトハウス』と呼ばれているのです。
その車はなんと日本製SUV車。市販車を改造し、銃を備え付けて軍用車両にしているのです。
まさかブレイクショット?と思いますがなぜホワイトハウス?
それは車体に書かれた日本語の文字。日本語がわかるという観光客に聞いたところ、知らない単語だと言いつつ、「ホワイト、ハウス」と訳したためこの名前になりました。
彼ら武装勢力は、外国からのゲストを護衛してお金を稼ぐこともしていて、エルヴェとフェリックスにまたその手の仕事が与えられます。
護衛するのは、体格のいい白人男性と黒人男性、白人女性とその10歳くらいの息子の計4人。
あ、これプロローグのニュースになってた行方不明の子?と思ってアフリカのホワイトハウス1は終了。
作者の逢坂冬馬さんは、デビュー作の「同志少女よ、敵を撃て」でも次作の「歌われなかった海賊へ」でも戦争を題材にしていますから、こういった場面は得意なのかもしれません。
一章 マネー、ライフ、ゲーム
一章の主人公は霧山冬至、冒頭で環状6号線をブレイクショットで走っています。
ファンドグループ・ラビリンスの副社長で東京のタワマン最上階に住む、超富裕層にあたる人物。
冬至と同じく東大に通っていた宮苑秀直が社長をしています。
この一章のタイトル「マネー、ライフ、ゲーム」は宮苑秀直の人生の座標とする英単語3つで、冬至の大学時代のそれは「勤勉、家族、平穏さ」でした。
そんな本来家族を大事にする信条のはずの冬至は、プロサッカー選手になりたいという14歳の息子・修吾に反対しており、妻・香織は息子の味方で、少し家族の間がギクシャク状態。
冬至は、修吾が仲良くする3歳年上の優秀な少年・後藤晴斗と、その父で板金工、都営団地暮らしの友彦親子を、自分たちとは違うと考えています。でも香織は、後藤家がいい家族だと思っているし、友彦の妻の絵美とも親しくしています。
ここで後藤という名前に反応した私。プロローグで、昴の勤め先にいた正社員のひとりも後藤さんでした。
でも、後藤さんはいつもニコニコしているけれど非常に無口、とあって、友彦は無口ではないし、家族と暮らす板金工であって、後藤さんのような期間工たちと共に寮住まいではありません。
でも同じ名前だから、どこかで誰かとつながるかもしれないと思いました。
一章では、敵対的TOB(株式公開買い付け)だとかインサイダー取引だとかが出てくる一方で、貧富の格差による教育の機会の差なども考えてしまいます。
ですが一章のハラハラしながら読めるメインはビジネスの駆け引き・マネーゲーム、裏切りなどのやりとりだったと思います。
とんでもなく頭がいい切れ者で、カリスマ性を備えた、ラビリンス社長・宮苑秀直も見どころ(読みどころ?)です。
いろいろあって、冬至は最後にブレイクショットを手放すことになります。
二章 取り柄は善良さ
二章の主人公は一章に登場した後藤友彦。
そしてなんと中古で憧れのブレイクショットを手に入れています。しかも後にわかることですが、そのブレイクショットは冬至が手放したブレイクショット。
友彦は、新聞の難しい記事の意味がわからず、息子の晴斗はとても優秀で父にその意味を解説できてしまう少年。
ただ友彦がすごいと思うのは、息子に教わることを恥ずかしがらず、その優秀で優しくてみんなに好かれる息子の晴斗を、人前でも褒めるところです。
友彦は板金工のベテランで、技能検定1級に合格し、工場のみんなとも仲良くやっていて、10代の後輩・中邑翔の面倒も見ています。
その翔は、友彦をかっこいいと言い、「後藤さんみたいになりたい」と言います。
どうすれば後藤さんのようになれるかと問われた友彦の答えが、二章のタイトル「取り柄は善良さ」。
妻と子どものために日々まじめにがんばり、夫婦共働きで都営住宅に住み、自分の理解が追いつかないほど優秀だとわかった息子のためにできることは何でもする父親でした。
無学で若干天然な感じのお父さんですが、本当に善良な人物なのです。
ところがその友彦を悩ませる事態が起きます。それが公式あらすじにもある「偽装修理に戸惑う板金工」です。
かわいい後輩の翔が、社長の命令でやらされた偽装修理を尊敬する友彦に相談したのです。
実際にありましたね、そういう事件。わざと車を傷つけて修理費を水増しする企業。
友彦はどうするのか。
そしてさらに、思いもしなかったできごとが友彦を襲います。
その元凶は道に落ちたボルト。

まさか、プロローグの昴はブレイクショット内に落ちたボルトを、悩んで結局報告しなかったのか??
ブレイクショットは友彦の手を離れます。
何とも言えない苦しい状況に、読むのもつらい、でもどうにか明るい方向へ進んでほしいと願う二章でした。
三章 僕らの夢は
三章の主人公は、霧山冬至の息子の修吾です。
父親たちの苦難が描かれる裏で、息子たち・修吾と晴斗がどんな日々を過ごしていたかが、修吾目線で語られます。
修吾が10歳の時、サッカーに目覚め、ユースチームで晴斗と出会うところからスタート。
未経験なのにセンスがあって10歳で150cmもある身長(冬至も高身長)で、修吾は上級生クラスに入ることになります。
そこでドリブルがうまくできない修吾が、本来は左利きなのを冬至の命令で右利きに矯正されていたということに、晴斗が気づき、左足を好きに使うよう助言したことで修吾は大活躍。

晴斗自身、ユースチームの奨学生でとびぬけて実力のある選手でしたが、本当はプレイヤーよりもチーム全体を見てマネージャーをする方が自分に向いていると考えていました。
そこで修吾のサッカー選手としての力を知った晴斗は、チームの練習が無い日の自主練を一緒にやることを提案。
ふたりの家は近所でしたが、修吾はタワマン最上階、晴斗は都営住宅。
その差がわからない10歳の修吾に、13歳と言う実年齢よりずっと大人な晴斗は苦笑いをしながら「近所で遠い」と言うのが刺さりました。
修吾の親が、自分との練習を許してくれないことをある程度想像していた晴斗でしたが、冬至はちょっと間を置きながらも勉強をおろそかにしなければ、と許し、ふたりはどんどん仲良くなっていきます。
そのうち夢を共有するふたり。
ところが、修吾14歳、晴斗17歳の時、一章・二章で語られた、それぞれの父親に降りかかる苦難が。
読んでいるこちらが苦しくなる状況で、まだ17歳の晴斗が、家族のことも、ふたりの夢も、すべて自分がなんとかしてみせる、諦めない、と涙ながらに修吾に言い、それを受けて修吾も絶対夢を叶えなければと決心するのです。
四章 狩り場の七面鳥
四章の主人公は、ブレイクショットに乗る十村稔。
ただ、ブレイクショットは十村の所有ではなく、十村の勤める松代不動産の社用車でした。
ブレイクショットの車体に書かれた会社名を見て、仲間内で皮肉の種にしたと言います。
皮肉?
松代不動産?まつしろふどうさん?まつしろ??
ピンときました。ホワイトハウス!え?でももしそうだとしたら、時系列どうなってるの?
たぶんプロローグのニュースはホワイトハウスのエルヴェがやっている護衛だと思われ、もしホワイトハウスがこの社用車であるブレイクショットなのであれば、
- 社用車ブレイクショットが松代不動産から離れて中央アフリカ共和国に渡る
- そのブレイクショットがエルヴェ・フェリックスコンビの軍用車両になる
という順番のはず。
そしてエルヴェたちの護衛の話がプロローグのニュースであれば、晴斗の父・後藤友彦をつらい目に合わせたボルトは、昴の報告をしようかどうか迷ったボルトとは無関係?
いやいや、この四章がはたして時系列のどこに組み込まれる話なのかがここでは不明だから決められない。
ということでさらに読み進めると、『皮肉』の意味がわかりました。
十村が営業として勤める松代不動産東京支社は、ブラックもブラック、真っ黒・まっくろ!
創業者の長男である支社長のパワハラあり、悪徳商法あり、保険金詐欺ありの、投資用マンションに特化した営業をする会社でした。
投資用マンションを言葉巧みに買わせて利益を得ますが、実際のところは顧客の得はほとんどなく、将来的なことを考えると損にしかならないような物件を売っているのです。

そういった悪徳商法に関する知識のあるひとや、お金のことに詳しいひとには売れるはずもなく、営業に苦戦していた十村は、真田城生という男と知り合い、経済塾に誘われます。
十村は、勉強するためではなく、その塾に集まる受講生たちをカモにするべく、受講することにします。
そしてその塾の看板でもある若い美男美女コンビの講師が、なんと後藤晴斗と門崎亜子だと言うではないですか!
そのまま四章を読み進めると、十村から見る晴斗は、最後まで悪人扱いで終わり、最終的にブレイクショットは窃盗団に盗まれます。
でもここまで読んでいる読者としては、晴斗が悪人であるはずがない、講師として語る内容も悪いことではないように思うし、なにより十村に「良心に恥じないお仕事を」とまで言うのです。
だから、晴斗に何があったんだと考えます。そしてどうやら晴斗の味方のように見える門崎亜子も気になるところ。
十村自身も、本当は悪人などではないのです。
ブラック企業で追い詰められていくサラリーマンの現状や、詐欺の手口など、今の日本で多発する詐欺被害の裏事情も考えてしまう四章でした。
そして晴斗が学生ではなかったところから、この四章は一章から三章までの話より後のできごとだとわかります。
そしてホワイトハウス
途中途中に差し込まれるホワイトハウスの方は、なんと襲撃を受けて本陣と別れて1台だけで後を追いかけるはめに。
しかもゲストを乗せた車は放棄することになり、ゲストを分乗させるにあたり、なぜか10歳の少年ジェイクだけがはぐれてホワイトハウスのふたりと行動をともにすることに。
フェリックスが英語を話せるため、ジェイクと会話をすることでジェイクたちゲストのことが少しずつわかってくるのですが、ジェイクの父はスポーツ選手で、この国の助けになることで許されたいのだとジェイクは言います。
エルヴェとフェリックスも、賢いいい子たちだとわかり、彼らをどうにか救えないのかと思います。
ところが少年たちがピンチに。
五章 後藤晴斗の野望
タイトルに晴斗の名前が!これできっと、晴斗に何が起きているのかがわかりそうです。
経済塾のセミナー講師となった20歳になる晴斗が、これまでを思い返すところから五章は始まります。
公立の進学校に通っていた晴斗は、家族と修吾のため、その高校を中退しバーで働いていましたが、新型コロナウイルスが。
ユースチームで日本代表に選ばれた修吾の活躍の場は新型コロナウイルスに奪われ、晴斗のバーも無期限休業。
バーの常連だった真田に相談した晴斗は、経済塾のセミナーに連れて行かれ、カズ塾長こと志気和馬に会います。
志気の塾は、セミナーのほかにYouTubeもやっていて、晴斗の見るところそれらはたいした内容ではなく、経済についてきちんと教えるというよりただその気にさせるだけだと見抜きます。
でも、どうにかしなければならない現状に、提示された条件と報酬はありがたいものでした。

セミナー講師となり、受講者たちと誠実に向き合い、悪質商法にはまりかけている受講者を見つけるととめて解約させ、晴斗なりにやりがいを感じていた頃、志気の不可解な言動にとまどいます。
同僚の門崎亜子に相談すると、晴斗と同じく危ない商法にひっかかっている受講者を救っていた彼女も同じように感じていました。
晴斗と門崎がタッグを組み、志気とこの経済塾の裏を探ることになります。
読んでいる間、私の中で門崎亜子の言動がセレナさんとかぶりました。もしかして?
そんな中、受講生の大内夫妻からのSOS。ふたりはそろってかけつけます。ふたりの説得で夫婦の危機は回避できました。
音楽好きの大内夫妻は、夫婦で音楽の流れるバーの経営をするのが夢でした。夫婦が出会ったバーでかかっていた曲は『オーバーザレインボー』!「バー・レインボー」と重なります!
そして、すっかり打ち解けた晴斗と門崎は、互いのことを打ち明けますが、その門崎の話の中に、プロローグで登場したある名前が!
この五章は、「ブレイクショットの軌跡」の中で、1番多くのページを費やした物語で、実に盛りだくさんの内容がつめこまれています。
プロローグとの関わり、ホワイトハウスの事件につながるある行動、四章の十村の件に関わる裏側、修吾の想い、晴斗自身の人生について、様々あって最後には一章のある人物まで登場するという、今までの伏線が少しずつ回収されていきます。
ただ、完全に解決と言うところまではたどり着かず、この後の六章へ続きます。
六章 闇から光へ
六章の主人公は、晴斗と門崎の勤める経済塾の、カズ塾長こと志気和馬。
まず、志気が高校時代から今に至るまでのことが語られます。
志気と言う男は、晴斗の父である善良さが取り柄の友彦の対極にあるような人物と感じました。
自分の野望のためにはルールをやぶる、ひとを利用する、自分のしたことが悪だと反省することはない。
そうなってしまった原因があるのかもしれませんが、志気はあることをきっかけにヤクザと関わることになります。
そのヤクザの構成員に、あの真田がいました。
真田の上にいる竜山健志という男も出てきて、志気の自業自得とは言え、ヤクザと切るに切れない関係ができあがっていきます。
そして、ある目的のために作った経済塾で使える人材として、晴斗と門崎に目をつけます。
見た目が良い、頭の回転が速い、学歴と職歴がない、という志気にとって都合のいいふたりを巧みに落とし、引き入れます。
ところが予想以上に優秀だった晴斗と門崎は、塾の裏に気づき、ふたりを手放したくない志気は手立てを考えます。
六章は、晴斗と志気と竜山・真田という、いずれも頭の切れる人物の頭脳戦といったところでしょうか。
志気目線で進むため、読者側からは晴斗の動きがわからないというところもポイントで、ハラハラな展開が続きます。
読むのをやめられませんでした。
志気が最後に晴斗にかけた言葉が、なんとも言えない気持ちにさせられて、志気にいい出会いがあれば違った結果になったのかなと感じました。
そしてホワイトハウスとエピローグへ
六章の後は、大ピンチの只中のホワイトハウスにいる少年3人の場面にうつり、その後にボルトのことを報告するか悩む昴のもとへうつるエピローグにつながります。
ホワイトハウスの3人はどうなるのか、晴斗と修吾はどうなるのか、昴はどうするのか。
息子の夢を理解しなかった冬至も、そのままではなく、本来の自分の人生の座標軸を思い出させて変わるきっかけをくれたのは、見下していたはずの晴斗の父・友彦でした。
そしてその友彦も、実は冬至に励まされていますが、自分が相手に及ぼした影響を父親たちはお互いに知りません。
宮苑秀直が冬至や晴斗に与えた影響も、友彦がかわいがった後輩の翔への影響も、幼い修吾に晴斗のひとことが与えた影響も、晴斗と門崎の行動が十村に与えた影響も、門崎と言う存在が晴斗とお互いに与えたあった影響も、竜山が志気に与えたもの、志気と晴斗がお互いに与えあったもの、コーナー・ウィルソンが与えられたものと与えたもの。
最後は昴目線でまとめられる物語ですが、ビリヤードのブレイクショットのように、誰かの一打が思いもよらない影響を及ぼして、自分の知らないところで誰かに影響を与え、与えられているのだと感じました。
厚み3cmを超える「ブレイクショットの軌跡」でしたが、伏線から予想したり、びっくりしたり、ハラハラしたり、あたたかい気持ちになったり、本当に読み応えがありました。
直木賞ノミネートも納得です。



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