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「みずいらず」染井為人著のあらすじを感想をまじえて紹介

ブーケを持つふたり 読書
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映画化・ドラマ化もされた「正体」で知られる作家の、染井為人さん。その染井為人さんによる夫婦の物語が、この記事で紹介する小説「みずいらず」です。9話で構成され、少しずつ登場人物が重なりつつ、様々な状況の夫婦のやりとりが語られます。多様な生き方が認められ始めている今にあって、夫婦になることと夫婦を続けていくことを考えさせられました。

染井為人さんの小説

私が初めて読んだ染井為人さんの小説は「正体」です。

亀梨和也さん主演でドラマ化、横浜流星さん主演で映画化されており、話題となりました。

殺人犯が脱走し、逃亡する先々での出会う人とのやりとりが描かれていて、小説・ドラマ・映画とラストが異なります。

原作である小説が一番悲劇ですが、それは作者の染井為人さんが訴えたいことのためには必要なものだったそう。

「正体」のレビューは以下の記事です。

デビュー作である「悪い夏」も社会派サスペンスで、北村匠海さん主演で映画化されています。

ほかの作品もいわゆる社会派と呼ばれるジャンルのミステリ小説が多い作家さんです。

そんな作家である染井為人さんの小説としては、「みずいらず」は異色かもしれません。

ですが、「正体」の中に登場する夫婦や家族のやり取りの中にも、「みずいらず」と同様、考えさせられるものがあったので、きっと、ジャンルにこだわらず、人と人とのつながりやすれ違いを描くのが上手な作家さんなのでしょう。

おかしいのはどっち

主人公は37歳の佐藤綾子さとうあやこ

離婚した夫との間に息子のれんがいて、9歳下の健太けんたと再婚しています。

再婚後に次男となるかえでが生まれ、綾子は健太の蓮に対する愛情が減ったように感じています。

綾子の愚痴の聞き手となる妹の莉子りこは、次の物語の主人公となるまことの妻で、誠もこの話で登場します。

蓮には発達障害の疑いがあり、学校でもうまくいかず、綾子の心配とストレスは増える一方。

途中、妹の莉子が「お姉ちゃんはわがままだと思う」と言います。

正直、読んでいた私も莉子にちょっと賛成してしまうくらい、綾子は考え方が狭くなっていきます。

育児家事で目いっぱいになって、そこへ自己嫌悪が重なるときのどうしようもない気持ちは共感できる部分。

そして最後に健太が綾子にかける言葉たちがじーんとくるものでした。

なぜ出ない

主人公は47歳の深谷誠ふかやまこと

前話で妻の莉子の尻に敷かれて気弱な夫、という感じを受ける人物です。

職場では中間管理職でまじめできちんと仕事をこなせるものの、優しすぎて部下にどこか馬鹿にされ、上司には都合よく扱われています。

妻の莉子は36歳。

結婚して3年、子どもができず、調べてみるとその原因は誠にありました。

ただでさえ、冴えない自分を選んでくれた莉子に負い目があるのに、子どもを持てないのが自分のせいだとわかり、それまで大丈夫だったはずなのに射精障害の状態に。

そんな誠の悩みを聞いてくれるのは、同期の原俊介はらしゅんすけ

俊介は次の話の主人公です。

俊介は誠と同じく課長で、誠とはタイプが違うものの、よき友人として話を聞いてくれる存在です。

その俊介のおかげで、悩みの種の正体がわかった誠は、莉子と話しますが、莉子の答えが莉子らしくてよかったです。

プライドは富士山

主人公は47歳の原俊介はらしゅんすけ

大学の後輩だった友恵ともえと結婚し、高3の双子の娘がいます。

俊介はいわゆるイケオジで、できる男。

浮気も散々していた彼は、ある日、よくできた妻の友恵から離婚を切り出されます。

「好きな人ができてしまったんです」と言う友恵。

相手は友恵の幼馴染みの男性で、その男性がオーナーシェフを務めるレストランでは、ふたりの娘がバイトしています。

前話で誠の悩みを聞いていた俊介ですが、実は自分の方が悩みを聞いてもらいたかったのに、高過ぎるプライドが邪魔をして切り出せませんでした。

そんな俊介の様子に気付いていた誠は、こんどは自分が聞くよ、と食事に誘うのですが、俊介はその誘いに乗れず、やっぱり打ち明けられません。

悩む俊介が行った打ちっぱなしで出会った老夫が次の話の登場人物となります。

浮気はしても、自分の帰るところは友恵だと思っている俊介は果たしてどうするのか。

しかし友恵さん、本当にできたひとです。私はああはなれない。

夫婦の再開

主人公は、前話で俊介が出会ったおじいさん・一彦かずひこと30年夫婦として過ごしてきた59歳の美智子みちこ

66歳になる一彦は、いわゆる三高。高学歴・高収入・高身長。

親せきの紹介の縁談で、恋をしたわけでもないけれどいい条件だからと結婚。

息子の太輔たいすけが生まれた後、仕事が忙しい一彦は育児に関わることもなく、次第に美智子にとってはただの同居人になっていました。

そして定年後、家にいる時間が増えた一彦の存在が疎ましくなっていました。

息子の太輔が結婚して家を出たのもその気持ちを大きくさせています。

そして、友人との会話の中で美智子に芽生えた離婚したいという気持ち。

しかし経済面での不安が拭えず、美智子は友人の言っていた投資セミナーに参加することにします。

さて、この投資セミナー、怪しさしかありません。

ここで「正体」の五章『脱獄から三六五日』を思い出します。

そして、染井為人さんの小説ではありませんが、「ブレイクショットの軌跡」も思い出しました。

逢坂冬馬さんによる小説で、直木賞にノミネートされていた作品です。

詐欺集団にカモにできる人たちの名簿を売るために開かれるセミナーの話が出てきます。

こちらもおすすめです。

話を戻し、美智子がその後どうなるか。

疎ましがられていた一彦のかっこよさにしびれます。

薄情者

主人公は、前話で美智子の愚痴を聞きつつ、離婚に反対していた息子の西村太輔にしむらたいすけ28歳。

子どもの頃から両親の間を取り持ってきて、離婚にも反対している太輔ですが、大好きだったはずの2歳下の妻・亜美あみを疎ましく感じている自分に気付いていました。

いつも元気で前向きな亜美にプロポーズし、東京から名古屋への転勤に一緒に連れてきたのですが。

そんなある日、医療機器メーカーの営業マンとして外回りをしていた太輔は、整骨院に行くと言っていたはずの亜美が、太輔の営業先のメンタルクリニックに入っていくのを目撃します。

そこで太輔は亜美の相談内容をこっそり盗み聞きしてしまい・・・。

盗み聞きはよくないことですが、亜美の想いに気付くことができてよかったです。

交換日記

主人公は、前話で亜美の主治医だった湯浅香織ゆあさかおり

夫の雄大ゆうだい42歳がひきこもり状態になっています。

人員整理で20年勤めた会社を辞めることになってしまった雄大は、7カ月経っても就職先が決まらない状態。

香織曰く、雄大は「よく言えばマイペース、悪く言えばトロい、忘れ物が多くて注意散漫」。

それでもがんばっているのに採用されず落ち込んでひきこもり、好きなプラモデル作りをしていて、ふたりの子どもたちにまで気を使われています。

夫の状態に不安をつのらせる香織は、心理カウンセラーでありながら、そういう状態の人に言ってはいけない言葉をかけてしまいます。

そんな香織は、ある患者の診察で交わした会話をきっかけに、若い頃雄大としていた交換日記のことを思い出しました。

なぜかどうしても気になって探しますが見つかりません。

その交換日記は雄大が保管していました。

その日記を読み返した香織の想いと、雄大の想いとがわかって、最後はじんわり来る物語です。

いつまでもあると思うな。妻と金

主人公は、前話で香織の友人の兄として登場した綱島直樹つなしまなおき46歳。

43歳の妻である景子けいこの更年期障害への対応に苦慮しています。

中3の一人娘咲良さくらと、愛犬ポッキーと暮らしていますが、それまで家事すべてをひとりでしていた景子が、突然一切やらなくなったのです。

そしてすべてを直樹と咲良にやらせてダメ出しのオンパレード。

直樹も咲良もストレスがたまる一方で、直樹はどう対処していいかわからず、前話で香織に相談したのです。

ですが、妻の景子の事情は、この記事の筆者である私には早い段階でわかってしまいました。

おそらくは私でなくともすぐ気づく読者はいらっしゃるでしょう。

個人的には、景子の気持ちには共感しますが、やり方には反対です。

受験期の娘を思ってのことなら、そのやり方も咲良にとっては不満とストレスになったわけだから、いずれ知られるなら最初から言うべきだったと私は思います。

ただ、いろいろな夫婦・家族の在り方がありますから、綱島家にとってのベストな形に収まるといいなと思います。

思い出の抽斗

主人公は原田清子はらだきよこ74歳。79歳の夫・忠志ただしと暮らしています。

このふたりは、前話で直樹が愚痴を聞いてもらっていた上司の原田和雄はらだかずおの両親です。

前話でも少し語られていますが、忠志が突然始めた終活に、いやいや付き合わされる清子の想いが冒頭で改めて語られます。

そして夫婦のやり取りや地域の人との交流が描かれていくのですが、清子に少し気になるところが出てきます。

このお話はなんとも切ないです。忠志の本当のところの気持ちが本人から語られないまま終わりますが、どんな気持ちでいたのでしょう。私が同じ立場なら、最後の忠志と同じセリフを言えるかどうか。

息子の和雄に、早めに動いて欲しいと思います。

シングル

最終話の主人公は、40歳の染谷和人そめやかずひと、シングルです。

和人の職業は小説家で、文学賞受賞後、社会派ミステリの作家として知られています。

名前も境遇も似ていて、おそらく作者の染井為人さんがモデルではないかと思われる人物です。

和人は生まれ育った千葉に家を購入しました。(染井為人さんも千葉出身)

ところが片付けられない人の和人の新居はどんどんひどい有様に。

新しい小説も全く書けず、掃除代行を頼むことにしました。

やってきたのは星野詩織ほしのしおり、和人より3歳年上で離婚しており、中3の息子がいる女性です。

その星野さんとのやり取りの中で和人が決めた新しい小説の題材は、「心が温かくなる夫婦の物語」でした。

ただ、独り身の自分だからこそ、パートナーのいる生活を描いてみたくなったのだ。せめて物語の中だけでも結婚生活を送ってみたい。

「みずいらず」染井為人著・祥伝社より

まさにこの「みずいらず」です。

シングル同士の和人と星野の物語の終わりがどうなるかは、ぜひ読んでみてください。

どのお話も「心が温かくなる夫婦の物語」でした。

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