2024年本屋大賞を受賞した「成瀬は天下を取りにいく」の続編である「成瀬は信じた道をいく」は、2024年1月に発売された小説です。作者は宮島美奈さん。また魅力的な主人公・成瀬に会えます。前作に続き、ネタバレありであらすじと感想をまとめました。成瀬がいたら、楽しい毎日が送れそうです。
「成瀬は信じた道をいく」とは
新潮社の公式サイトによる「成瀬は信じた道をいく」の紹介は以下の通りです。
成瀬の人生は、今日も誰かと交差する。「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生……。個性豊かな面々が新たに成瀬あかり史に名を刻む中、幼馴染の島崎が故郷へ帰ると、成瀬が書置きを残して失踪しており……!? 読み応え、ますますパワーアップの全5篇!
「成瀬は天下を取りにいく」の続編である今作は、主人公・成瀬あかりの相棒・島崎みゆきが引っ越してしまう前から、その後にかけて、少し時系列が前後して全5話で構成されています。
前作同様、滋賀県大津市への地元愛が満載です。
滋賀県と言えば思い出される西川貴教さんの名前が、「成瀬は天下を取りにいく」に登場していますが、今作には西川貴教さんご本人から『成瀬はゼゼカラ! 僕はヤスカラ! 共に、滋賀を元気にしよう!』というメッセージが寄せられています。
第1話 ときめきっ子タイム
第1話は、成瀬の住む滋賀県大津市ときめき地区の、成瀬の母校・ときめき小学校に通う4年生、北川みらいのお話です。
4年生に出された課題「ときめき地区で活動している人を調べる」で、みらいはゼゼカラについて調べたいと思います。
みらいはゼゼカラの大ファンなのです。
ゼゼカラとは、成瀬と島崎のふたりが、お笑いの頂点を目指そうとM-1に挑んだ時に結成したコンビ名です。
二人の住む膳所(ぜぜ)から来ました、という挨拶とともに「ゼゼカラです!」と名乗ります。
ゼゼカラについては、「成瀬は天下を取りにいく」第2話「膳所から来ました」でわかります。
前作「成瀬は天下を取りにいく」については以下の記事をどうぞ。
なぜみらいがゼゼカラのファンになったかというと、ときめき夏祭りで、お財布を無くしたみらいに気づいた成瀬が一緒に探してくれて、島崎も協力してくれたことがあり、その後の祭りでのふたりの総合司会ぶりや漫才に感動したから。
ゼゼカラが、地区のお祭りで毎年総合司会をしているとは言え、世間一般的にゼゼカラがそこまで有名というわけでもなく、学校の課題を一緒にするチームのメンバーはゼゼカラを知らない子もいます。
みらいの仲良しの子は、みらいがゼゼカラファンであることを知っていますが、ほかの子も説得し、ゼゼカラを調べることになります。
成瀬は小学校界隈ではそこそこ有名でした。
成瀬は小さい頃から、不得意な教科はひとつもなく、絵も歌も上手ですべてにおいて成績優秀。
調べだすと、校長室に飾られた絵を描いたのが成瀬、登校途中に掲示されている標語を考えたのも成瀬、先生方の間に残る伝説もあり、成瀬が優秀なのがわかります。
ますます成瀬への憧れが強くなるみらい。
そして成瀬本人と会えるのです。
成瀬は個人的に地区をパトロールしていたのでした。
いつも通り我が道をいく成瀬ですが、小学生相手にも丁寧に対応します。
そんな中、みらいは友達のちょっとしたひとことでショックを受け、悩んでしまいます。
その悩みを聞いてあげたのは、成瀬ではなく島崎。
成瀬の話題はたくさんあっても、島崎についてはそこまで話題があつまりませんでしたが、島崎がとても優しいお姉さんで、成瀬ひとりでは成り立たないゼゼカラなのだと再認識します。
その後もみらいはゼゼカラファンでい続け、成瀬を見習ってパトロールを続けます。
第2話 成瀬慶彦の憂鬱
成瀬慶彦は成瀬のお父さんです。
娘のあかりをとても愛しているいいお父さんです。
自分がしっかりしていて何事にも動じない成瀬は、お母さん似なのかもしれません。
お母さんはマイペースで、娘の突飛な言動にもあわてずどっしりと構えている感じで、お父さんは娘を本当に愛していていいお父さんだけれど、若干空回りするところもある感じ。
そんなお父さんが憂鬱なのは、成瀬が京大に合格したら、家から通うものだとばかり思っていたのに、家のPCの検索履歴に一人暮らしについて調べた形跡を見つけてしまったから。
愛する娘を全面的に応援したいが出て行ってしまうのは寂しい。でも娘の旅立ちを邪魔してはいけない、と悶々とするのです。
そんなお父さんは、成瀬の京大受験当日、大学まで付き添います。
成瀬は成績優秀なので京大合格はほぼ確実。
その受験の帰り、京大構内でテントを広げる男子に遭遇します。
彼は高知から受験しに来た城山友樹、YouTuber。なんと自分の動画の企画でヒッチハイクで来たとのこと。
当日は雪も降っていたのにテントで野宿しようとしているのです。
成瀬はそんな彼の身を案じて、うちに泊まるよう誘います。お父さんはびっくりしますが拒めず、彼を連れて帰宅します。
お母さんにあきれられながらも、友樹は廊下を貸してくれるだけで十分と言って寝袋を広げます。
成瀬と言い友樹と言い、やりたいことに挑む若い子が出てくるのは素敵です。親は心配だけれども。
合格発表には、当然のようにお父さんがついてきますが、島崎も一緒に来てくれることになり、成瀬も友樹も無事合格します。
そして、お父さんの憂鬱の原因はどうなったかというと、成瀬は広島の友人がこちらで一人暮らしをするというので、手伝おうと調べていただけと判明します。
その友人の名前は登場しませんが、広島だからきっと、「成瀬は天下を取りにいく」に登場した、成瀬に恋する男子・西浦航一郎くんなのでしょう。
第3話 やめたいクレーマー
スーパー・フレンドマートの「お客様の声」になにかとクレームを書き込む主婦・呉間言実が主人公。
呉間言実は、クレームばかりの自分が時々嫌になりながらも、クレームを入れるのをやめられません。くれま、という名字のせいかと思ったりしますが夫の祐生は穏やかでおおらかな人物。
ある日言実はまさにクレームを書いている時に従業員に声をかけられます。客相手にタメ口のその従業員は、アルバイト中の成瀬。
成瀬は、万引きが多いのでパトロールをしているのだが、平日の午前中のパトロールに協力してくれないかと言うのです。
成瀬の態度もどうかと思うし、言実はそれを断って、しばらくフレンドマートも避けるのですが、いろいろあって結局またフレンドマートに。
そこで言実は、万引き犯らしき女性を見つけます。
結局成瀬に協力する形になり、その後その万引き犯を捕まえることに成功。
成瀬が言実に協力をあおいだ理由が、言実のクレームがどれも、よく店を観察し、店をよくするための意見になっていると思ったからだったと知ります。
言実は自分のクレームの多さに嫌気がさしていたけれど、成瀬の言葉で少し気が晴れるのでした。
そしてときめき夏祭りで、ゼゼカラとして活躍する成瀬も知ることになります。
第4話 コンビーフはうまい
このタイトル「コンビーフはうまい」は、成瀬が自宅の電話番号を覚えるための語呂合わせとして相手に言うものです。
今時めずらしく成瀬はスマホを持っていないのです。
この話は、地元を愛する成瀬が、びわ湖大津観光大使に応募し、見事にその座を手にし、同じく観光大使となって相棒になる篠原かれんが中心となります。
篠原かれんは、父が市議会議員で、母は有名な和菓子屋、その母と祖母は元観光大使で、3代続く観光大使になるよう育てられた女の子。
本当は彼女は撮り鉄なのですが、それは観光大使と言う自分の設定にそぐわないと思って表に出さず、観光大使らしいインスタのアカウントを持っています。
やっと自分のスマホを持った成瀬は、篠原にインスタのことを教わりながら、独特のセンスで観光大使として地元アピールを発信します。
最初は戸惑いつつも、成瀬に影響されていく篠原。ふたりで活動するうち、自分のやりたいことを考えるようになっていきます。
最後に篠原のお兄ちゃんが篠原に言う言葉が素敵でした。
ちなみにコンビーフはうまいがどんな語呂合わせなのかは、はっきりと書かれませんが、篠原曰く、かなり無理やりのこじつけながら、一度聞いたら忘れられないものだったそうです。
第5話 探さないでください
今作の最終話は、前作同様登場人物全員集合といった感じです。
大晦日、成瀬は「探さないでください」という手紙とスマホを置いて、けん玉と観光大使の衣装を持って何も告げずに姿を消します。
東京に引っ越した島崎は、成瀬に会いにサプライズでやってきたのに成瀬はいません。
そんな成瀬をまた心配する父・慶彦と一緒に、島崎は成瀬を探しに行くことに。
途中で地域パトロール中の北川みらいも合流、呉間夫婦も協力、篠原かれんも加わります。
京大の城山友樹にも当たろうとしますが、彼は四国一周の動画配信中。
そんな中、テレビのニュースに映る成瀬を発見、場所は名古屋。
そこから慶彦の車で、島崎・みらい・篠原が同乗し、あちらこちら成瀬探しが始まりますが、各地ですれ違い続け・・・。
最後はどうなるかは、ぜひ読んでみてください。
なぜけん玉なのかもわかるとおもしろいです。
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