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「水車小屋のネネ」の魅力的な登場人物たちとあらすじをネタバレありで紹介

水車小屋のネネ 読書
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2024年本屋大賞2位に選ばれた、津村記久子さんの小説「水車小屋のネネ」。毎日新聞に連載され、その後エピローグが加筆されて販売した本は、かなりの分厚さです。1か月半近くの入院生活を送ることになった私は病院内の図書館でこの本を発見し、分厚さにおののきながらも借りてみると、理佐と律姉妹の行く末が気になり、一気に読んでしまいました。この記事ではその内容を感想を入れつつざっくり紹介します。

第一話 一九八一年

18歳の山下理佐と、8歳のの姉妹が、わずかな荷物を持って家を出るところから始まります。

理佐は高校卒業後、短大の被服科に進むはずでした。ところがその入学金を、母親が自分の婚約者のために使ってしまったのです。

ふたりの母親は、娘たちを女手一つで育ててきたひとでしたが、勤め先で知り合った男性とつきあいだしてから、自分で考えることや娘たちを育てることなどすべてを放棄してしまったようでした。

しかもこの男性が、会社を辞めてからは姉妹の母親の収入に頼りきりで、起業すると言ってはいますが完全にヒモ状態。

そして機嫌が悪いときは律にあたったり、ご飯抜きにしたり、夜に家から追い出してしまうような男

理佐はバイトをしていて、なるべくその男を避けていたので、妹の律がそんな目にあっていることを知らず、ある夜ひとりで公園にいる律を見て初めて知ります

母親に言っても、母親は男と別れる気はないし、娘たちを助ける気もありません

18歳の理佐は、妹の律を連れて家を出る決心をします。

理佐のバイト先の先輩である、20代半ばの光田さんが相談に乗ってくれました。光田さんも若いのに苦労人で、ハローワークの利用の仕方や役所の手続きなど理佐に教えてくれます。

そこで住まいの補助付きの仕事が見つかりました。

山間の水車小屋のあるそば屋さんです。

水車

さん53歳と浪子さん53歳の営むお店で、そば粉を水車小屋の力を利用した石うすでひいており、そのうすの番をしているのはなんと、鳥のヨウムのネネ推定10歳。

ヨウムは長生きの鳥で、50年くらい生きる上、とても賢くて言葉も覚えます。

そば屋の先代が面倒を見ていましたが、先代亡きあと、浪子さんは鳥アレルギーで世話が難しく、守さんには調理があり、ネネの世話は理佐の仕事内容に含まれていました

このネネがとても愛嬌のある子で、歌や音楽が好きで物まねも得意。姉妹と仲良くなっていきます。

最初は、理佐が幼い律の面倒を見ながら姉妹だけで生活することを、町のみんなが心配しました。浪子さんと守さんも。理佐は詳しい理由も話していなかったので余計にです。

でも、少しずつ姉妹の味方が増えていきます。

水車小屋で時々岩絵の具を砕いてもらう、絵描きの杉子さん。

律と友達になった寛実ちゃんと、寛実ちゃんを男手一つで育てているお父さんの榊原さん。

律の担任になった藤沢先生

町になじめるように浪子さんが誘ってくれた婦人会の集まりでは、婦人会会長・郵便局員である真壁さんと知り合い、副会長の園山さんには、妹を育てるなんて大丈夫なのかと少し責めるような言い方をされてしまいます。しかし園山さんも、だんだんと理解して味方になってくれます。

婦人会では、合唱の衣装を理佐が担当することになり、みんなに喜ばれます。

理佐がお裁縫が得意なことを知った榊原さんからは、寛実ちゃんのピアノの発表会の衣装づくりを頼まれます。

そば屋の仕事も、婦人会の仕事も、どれもまじめにがんばりながら律を育てる理佐を、みんなが見守ってくれるようになるのです。

そして律も、とても賢い子でした。成績優秀ですし、わがままも言いません。

読んでいる私も応援したくなるふたりです。

そんなある日に、なんと母親の婚約者が姉妹のところにやってきます。律がひとりの時に現れました。鳥肌が立ちました。

その時に律を助けてくれたのは絵描きの杉子さんです。

律をひとりにしておくのは危険だと考えた理佐は、学校の子たちと一緒にいさせたり、可能な時は寛実ちゃんと一緒にいさせてもらい、基本的には学校が終わってからは水車小屋でネネと一緒に理佐を待つことにしました。

でもまたやってくるのです。その時は律が機転を利かせ、ネネの協力を得て逃げることに成功しました。

その後、母親と婚約者は、律の学校を通じて姉妹に戻ってくるように言ってきます。

その場に立ち合ってくれたのが藤沢先生です。

そして、理佐と律の言うことは嘘だと言う母親たちより、理佐と律のふたりの方を信じてくれます。

母親たちの目的は、母親とは離婚していた姉妹の父親の遺産を受け取りたいだけでした。

理佐は、律の受け取り分は、律が大きくなってから律が決めることだから使わないでと言い、自分の受け取り分は母親たちに譲るから自分たちに関わらないでほしいと言います。

母親たちはそれで引き下がります。ひどい親がいたものです。

おおらかでのんびりした感じなのにかっこいい理佐と、お姉ちゃんと共に戦う賢い律が健気で、この姉妹の行く末が気になって一気に読み進めてしまいました。

第二話 一九九一年

物語は10年後に飛び、物語の中心になる人物が、理佐から律に移ります。

18歳になっている律は、地元の農産物の商社に勤めていました。

成績優秀な律に、周りは進学を勧めますが、お姉ちゃんに世話になってばかりではいられないと、律はまず働いて学費をためることにしたのです。

絵描きの杉子さんは83歳になっており、就労支援団体に入って、若者を応援する活動をしていました。

年老いた杉子さんを気遣う理佐と律姉妹に、子どものいない杉子さんは、ふたりのことが本当の子どものように思えると言い、それを聞いて泣く理佐を残し亡くなってしまいます。

杉子さんの残した家とアトリエを、姉妹はいつか買い取れないかと考えていましたが、そこを使っていいと言われていたのは就労支援団体で支援することにしていた鮫渕聡という青年でした。

葬儀にもやってきたこの青年は、杉子さんの家に住んで、町の水力発電所清掃の仕事を始めます。

その仕事は早めに終わるものだったので、聡は街の中で手を借りたいひとのお手伝いをするようになり、水車小屋のネネとも仲良くなってネネに「しゃとる」と呼ばれるようになります。

この聡には、実はつらい過去があり、家族に問題があって夢が断たれ、親も助けてはくれませんでした。

聡はこの町で暮らすうち、理佐に惹かれていきます。

その理佐は、急行の隣りの駅にある手芸店の正社員となりました。

守さんと浪子さんも60歳を超えて、そば屋以外の生活の糧を考え始めていたのです。

それでも、ネネの世話は、律や聡の協力も得ながら続けていました。

そんな中、大型の台風がやってきます。

町には水位を測る当番というのがあり、危ない状況にいるひとを守さんと聡が助けに行ったりとハラハラする展開がありますが、その危機を経て、理佐と聡の関係が深まります

第三話 二〇〇一年

物語はさらに10年後になり、理佐と聡は夫婦になっています。

聡はNPOに転職し、3年前にそば屋は閉めていて、水車だけは製薬会社での製薬のために貸し出して使われていました。

ふたりは杉子さんの自宅を買い取って改築して住んでいて、子どもはいません。

理佐が一時期通院していたことを律は知っていますが、子どものことについては深く聞いてはいません。

その律の初めての恋愛の相手は女性で、失恋で終わりました。

この物語には、子どものいない登場人物が多いのですが、そのひとたちは、血のつながらない子をいろんな場面で手助けしています。

律は無事に進学しますが、実父の遺産に働いて貯めたお金を足しても少し足りなかった学費を、義理の兄となった聡が出してくれました。律は最初辞退するのですが、聡は妹となった律に自分がお金を出すことに迷いはなかったようです。

そんな中で、笹原研司という中三の足の速い男の子が登場します。

どうやら経済的に厳しい家庭のようで、ちょっと問題のある悪い友達がいます。

あることをきっかけに研司は律と知り合い、律は水車小屋で彼の勉強を見るようになります。

研司は半ばあきらめていましたが、本当は進学をしたかったのです。

悪い友達にからまれた時は、守と聡が助けてくれました。

それから、イトウくんという友達もいます。

律の友達の寛実はラジオ局に勤めていて、音楽好きのネネが水車小屋で聴くラジオのパーソナリティも勤めていました。

その寛実の父・榊原さんの友人が、トレッキング中に行方不明になるという事件が起きます。

その友人は喘息持ちで薬を飲まなければ大変なことになります。

そこで、榊原さんに律と理佐夫妻、研司とネネも加わって捜索をすることに。

しゃべることができる上、外を飛ぶ練習をするようになっていたネネと、身軽な研司の活躍で無事救出されました。

そんな経緯もあって、定年後の榊原さんも研司の勉強を見ることになります。実は榊原さんは、研司の第1志望である工業高校OBだったのです。

そして律の小学校時代の担任・藤沢先生は52歳になっており、学校の先生と掛け持ちで支援活動をしていました。

その藤沢先生も研司親子の支援をしてくれます。

このみんながちょっとずつ助けてくれる展開がグッときます。

そして研司は第一志望の工業高校に無事合格するのでした。

第四話 二〇一一年

この「水車小屋のネネ」は、10年ごとに物語が進んでいきますが、なぜこの中途半端な年号なのかと思っていました。

でもここでわかります。2011年、そう東日本大震災です。

大きな地震が起きます。

寛実はラジオ局からの放送を続けます。

この地震で、律たちの周りでの被害はさほどではありませんでしたが、若い研司のその後を変えます。

工業高校を出て、電気関係の技術者になっていた研司は、被災地の役に立ちたいと東北に転勤することになるのです。

守さんはすでに亡くなっており、浪子さんは施設で暮らすようになっていて、ネネの世話には研司と榊原さんも加わっていました。

いなくなってしまう研司と、律たちのやりとりもあたたかく、血のつながりがなくても、こういう素敵な助け合いや思いやりでつながれるのだなとじんわり感動します。

守さん夫婦のそば屋は、1階はカフェ、2階は自習室となりました。

カフェで働いているのは富樫さん。

22歳で、研司の近所に住んでいた女性です。

律やネネたちと交流のある研司がうらやましくて声をかけ、水車小屋に来るようになり、現在はそば粉を使ったメニューを出すカフェを営んでいます。

2階の自習室は、いつでも誰でも来たいときに来て好きなことができる部屋です。いろいろな事情のある子どもたちを律が見守ります。

絵描きの中野さんという人物もやってくるようになっていました。杉子さんのことを思い出します。

杉子さんを倣って、水車の力で岩絵の具を作るのです。

舞台が少し移動して、河岡美咲という中二の少女が登場します。この少女は、藤沢先生が律に紹介した子でした。

藤沢先生は62歳。定年退職して体調を崩していました。たくさんの青少年を手助けしてきた先生は、知らず知らずのうちに体を痛めていたのかもしれません。

成績優秀な律を進学させるため、学費の援助を申し出るほどの先生です。律は断りましたが。

その藤沢先生は、美咲のことを、律に託してみることにしたのです。

律は押しつけがましいことはしません。ただ会って、話してみることから始めます。

世の中には、理佐と律、聡のように実の親が助けてくれない子や、研司や美咲のように誰かの手助けが必要な子が、きっとたくさんいるのでしょう。

「水車小屋のネネ」の登場人物たちは、みんなでそれぞれ少しずつ助けてくれます。

最初に家を出ようと決意した理佐の相談に乗ってくれた光田さんとの縁も、切れずに続いていることが物語の途中でわかります。

私は、私自身が病気だし、お金もないし、たいしたことはできないけれど、自分も大学の学費を自分で工面して通った経験があるし、なにかちょっと手を貸してあげられることがあるならやってみたいと思わされました。

エピローグ 二〇二一年

毎日新聞に連載された「水車小屋のネネ」は、このエピローグのみ後から加筆されたのだそうです。

美咲目線で始まります。

美咲は大学を卒業し、就職しています。無事に自分の道を進んでいるのですね。

研司は結婚して二児の父親となっており、里帰りをします。

守さんと浪子さんのそば屋1階にカフェを開いていた富樫さんは結婚して、念願のそばをお店で出すようになっていました。

ネネはというと、水車の番人を引退しています。

新型コロナでマスク生活をしている時期ですが、亡くなる人もいて、生まれた子もいて、成長して誰かを助けられる大人になった子がいて、頭のいいネネがいる。

他人同士でも、このネネの周りに暮らすひとたちのように、ちょっとずつ助け合って、お互いを尊重しあって、平和に暮らしていけたら素敵だなと思います。

本屋大賞2位の小説「水車小屋のネネ」ぜひ読んでみてください。

ちなみに、同年2024年本屋大賞は「成瀬は天下を取りにいく」でした。

以下の記事で紹介しています。

続編は「成瀬は信じた道をいく」です。

こちらは以下の記事で紹介しています。

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