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藤原実資の日記「小右記」ダイジェスト版を読んでみた

小右記 読書
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NHK大河ドラマ「光る君へ」ロバート秋山竜次さんが演じている藤原実資ふじわらのさねすけドラマ内で実資が政のあれこれに対する不満を奥方にこぼすと、奥方に「くどい!日記にお書きなさいよ」と言われ、「日記になど書くか!」と返すのがお決まりのやり取りだったのに、実は日記を残していた実資。しかもそれは膨大な量。その中から、「光る君へ」で時代考証も担当されている倉本一宏さんがおもしろいところを抜粋したダイジェスト版を読んでみました。ダイジェスト版とは言えかなりの厚さでしたが読みやすく、ますますドラマの続きが楽しみになりました。この記事では、毎週「光る君へ」を見ている私が読んだ小右記を、「光る君へ」と絡めながら紹介します。

大河ドラマ「光る君へ」の世界

2024年のNHK大河ドラマは、平安時代が舞台の物語。世界的に有名な長編小説「源氏物語」の作者・紫式部が主人公です。

紫式部は、ドラマ内では”まひろ”と名付けられています。演じているのは吉高由里子さん。当時は女性の名前が資料に記されることがほぼなく、誰々のむすめなどと書かれていて、名前がわからないことがほとんどです。わかっても読みは不明だったり。

読みに関しては女性に限りません。「光る君へ」でユースケ・サンタマリアさん演じる安倍晴明は、”はるあきら”と呼ばれていますが、昔から映画ドラマ小説ゲームといろいろなところに登場してきた安倍晴明は、”せいめい”という読みが多かったと思います。ほかにも、”はるあき”や”はれあきら”とすることもあるようです。

もともと大河ドラマが好きなので、何作か見てきましたが、大河ドラマというとやはり戦国時代を描いたものが多く、男性目線で時代の流れをフィクションとして作成しているイメージです。

しかし今回の「光る君へ」はちょっと異色。

恋愛ドラマ?いやいや、権力争いのドロドロもあるし。

脚本は大石静香さん。代表作は恋愛ドラマもたくさんありますが、大河ドラマは初めてではなく、2006年「功名が辻」も書いています。「功名が辻」は、仲間由紀恵さん演じる千代が、上川隆也さん演じる夫・山内一豊を支えていく、夫婦が主人公の戦国時代ものでした。私は「功名が辻」も見ていましたが、やはり、普段の大河ドラマとはひと味違うものでした。

「光る君へ」は、普段の大河ドラマファンにはもしかすると敬遠される要素もあるかもしれません。

一般には仲が悪いとされる紫式部と清少納言(演:ファーストサマーウイカさん)が、いまのところドラマでは、ずいぶん仲が良さそう。あの枕草子の書き始めに、まひろのアイディアが活かされているなんて!

でも私は楽しんでいます。平安時代のことなんて、何が嘘で本当かなんてわからないし、ドラマですから。あの、ききょう(清少納言のドラマ上の名前)が必死に中宮を元気づけようとして書き始めた枕草子、なんて、作り話でも感動します。

もちろん、創作ばかりではなく、一般に史実とされるできごとが中心に描かれています。

伊周これちかと隆家兄弟の事件も、実資の書き残した日記「小右記」に実際に記されているできごとです。

ロバート秋山竜次さんが演じる藤原実資

お笑い芸人のロバート秋山竜次さんが大河に出る、しかも平安時代に?と最初は意外でしたが、もう実資がおもしろくて。「嫌いだがな!」と不満を言いつつフレームアウトしていく実資とかたまらないのです。

不勉強でして、藤原実資という人物を私はよく知らなかったのですが、とても優秀な人物で、時の権力者たちに大いに頼りにされたようです。ドラマの中でも、相手が権力者であっても、それがおかしいと感じれば反対意見を堂々と述べる人物のようです。

今回私が読んだダイジェスト版、角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス日本の古典『小右記』」を編された倉本一宏さんによる解説を引用します。

普通、天皇側近の蔵人頭くろうどのとうを一、二年も勤めれば、参議に任じられて公卿の一員となる。ところが実資の場合、あまりの有能さや謹厳な勤務態度ゆえ、歴代の天皇が手放そうとせず、皇統が代わっても蔵人頭を辞めさせてもらえずに、八年間もこの地位にあったのである(これは六年間勤めた藤原行成も同様)。

「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫より

かっこ書きで行成(演:渡辺大知さん)も優秀さが認められています。

そして、実資はなんと90歳まで長生きします。残した日記は63年分

まじめにコツコツと平安時代の政務や儀式の式次第を事細かに書き残しています。そして、ドラマの中で奥方にこぼしていた不平不満も書かれていました。

時代考証担当の倉本一宏氏編「小右記」

大河ドラマ「光る君へ」で、時代考証をされているのは倉本一宏さんです。

小右記の現代語訳が、その倉本一宏さんによって書かれているのですが、一冊3000円ほどで全16巻の大作です。

小右記の現代語訳が読める文庫

これは、ぜひ読みたいけど手強いなと感じた私が手に入れたのは、その倉本一宏さんによるダイジェスト版である、角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス日本の古典『小右記』」です。

とは言え800ページ近くあるのでなかなか手強いのですが、ふりがな付きで現代語訳があり、続けて古文として書かれ、その後で実資の書いた漢文のかたちのものが書かれ、最後に倉本一宏さんによる解説があり、読みやすくなっています。

同じく角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス日本の古典」には、「光る君へ」の”まひろ”こと紫式部の日記もあります。

こちらは山本淳子さん編です。

この日記では、清少納言に対する批判も書かれているようです。

そして、実資に対する印象も書かれていて、それは良い印象だったようです。それについては後述します。

小右記ダイジェスト版の内容

さて、ここから小右記の内容について、大河ドラマ「光る君へ」に絡めながら紹介します。

赤痢にかかる藤原実資

ドラマで、佐々木蔵之介さん演じる藤原宣孝が、まひろの婿探しで一度候補に実資を挙げていたのを覚えていますか?

え?どう展開する?とワクワクしていたら、その頃実資は赤痢にかかっており、弱々しく歩く実資を見た宣孝は「あれは長くないな」と言って婿候補から外します。

実際は90歳まで生きたのですけれどね。

この赤痢にかかっていたのは小右記にも書かれています。

九八七年六月十日

赤痢は、やはりいまだ癒えなかった。そこで訶梨勒丸三十丸を服用した。三、四度、快く下痢をした。その後、特別な事は無かった。

「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫より

解説によると、実資はお腹が弱くて、下痢や便秘をしたという記事が日記の中に頻繁に出てくるとか。

そのたび飲んでいた薬は訶梨勒丸かりろくがんというもので、道長も飲んでいた高価なものだったようですが、倉本一宏さんによるとふたりとも大量に飲んで逆に体調を悪くしたりしているのだとか。

道隆を後継者にしたい兼家

段田安則さん演じる兼家は、井浦新さん演じる嫡男・道隆を内大臣に任命するよう求めます。それに対し円融院(演:坂東巳之助さん)は、引き換えに実資を参議に推しました。

兼家は渋ったようですが、円融院が認めさせたようです。

九八九年二月十九日

昨日、摂政(兼家)が申し上げて云ったことには、「加えて任じることについては、やはり難しいのではないでしょうか」ということだ。今日、院がおっしゃって云ったことには、「今回の事は、他人から非難は無いはずである。ただ、私(円融院)が決めたことであるから、すぐに帰り参って、摂政に申せ」ということだ。

「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫より

実資の能力が円融院に認められていたことがわかります。

実資が33歳のことでした。

ドラマの円融院は私は好きになれませんが、きちんと実資をみてくれていたのでしょうね。

実資は体育会系?

33歳の実資のもとに、山中の寺で修行中の僧たちが飢饉となっているという知らせが届きます。

すると実資、なんと自ら歩いて山登りをしてお米と塩を施したという記述が。

歩行して寺を訪ねた。嶺からよじ登った。山道は堪え難かった。

「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫より

ロバート秋山竜次さんがふうふう言いながら登るのを想像してしまいます。

実際の実資はどんなひとだったのでしょう。

実資の妻とのこと

「日記に書きなさいよ」と言っていた実資の妻・桐子(演:中島亜梨沙さん)は、兼家が摂政になる少し前に亡くなり、今ドラマでは真凛さん演じる婉子女王が実資の妻になっています。

婉子女王も日記に書くことを実資に勧めていましたね。実際には、婉子女王と結婚するより前から日記は書いています。

婉子女王と結婚したのは993年頃で、989年の日記に別の妻のことが書かれています。

九八九年六月十八日

「内方(実資の妻)は、今夜、室町から帰ってきました。迎え取られた際に、とても怨むことが有りました」と云うことだ。まったく拠るところが無い、拠るところが無い。

「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫より

解説によると、「妻は、迎えた実資に対して何か怒っていた」と誰かから聞いた実資が、その怒る理由にまったく心当たりがないと書いています。

ロバート秋山竜次さんのセリフで、同じ言葉を繰り返すことが何度かありましたが、この「まったく拠るところが無い、拠るところが無い。」というのが笑えました。

小さな子が亡くなったときの弔い方

990年、実資が34歳の時、小さな娘が亡くなっています。実資はしばらくの間悲しんだようです。

「悲嘆・泣血す」と小右記に書かれています。

この時代、7歳以下の子が亡くなった場合は、びっくりするほど簡素な弔いのしかただったようです。

実資は陰陽師にやりかたを確認しながら弔っていますが、お葬式もないし、お墓もないし、遺体は布の袋に入れて桶におさめて山の中に放置したようなのです。

しばらくして気になった実資は、使いの者を出して娘を見に行かせますが、「既に其の形無し」という報告を受けます。

切ないなあと、今ならそんなこと絶対できないと思いますが、平安時代はそうだったのですね。

実資は不正はしない

官職に任じてもらうために、「光る君へ」でもまひろの父が申し文を書いていましたが、実資のもとに、口利きを頼みにやってきたひとがいたようです。しかし実資は会いませんでした。

伊周と隆家兄弟

ドラマでも描かれた「長徳の変」の始まりは、小右記にも書かれています。

九九六年正月十六日

花山法皇は、内大臣(藤原伊周)・中納言(藤原)隆家と、故一条太政大臣(藤原為光)の家で遭遇した。闘乱が行われた。

「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫より

ドラマでは、竜星涼さん演じる隆家が直接弓を射ていましたが、ここでは従者同士の闘乱のように書かれています。

この後、藤原詮子(演:吉田羊さん)道長(演:柄本佑さん)を呪詛したとあり、5月1日には、隆家は捕まったが伊周(演:三浦翔平さん)は隠れて逃げたとあります。

ドラマでは、隆家と伊周が対照的に描かれていて、三浦翔平さんは見事なまでにみっともない伊周を演じていました。2008年「ごくせん」に出ていた頃が懐かしい。

一方で潔く出て行った隆家は、安倍晴明にいずれ道長の力になると言われていましたね。実資も、伊周とはそうでもないのに、隆家とはなぜか仲が良かったような記述が小右記にあります。

竜星涼さんというと、我が家では子どもたちが小さい頃見ていた2013年「キョウリュウジャー」のレッド役でした。実は「光る君へ」で一条天皇を演じている塩野瑛久さんはキョウリュウジャーでグリーン役でした。バイオレットを演じていた飯豊まりえさんも現在大活躍していて、高橋一生さんとご結婚されたし、みなさん成長されているのだなと母親目線になってしまいます。

藤原実資と紫式部の関係

1006年、実資が50歳の時、紫式部は道長の娘・彰子(演:見上愛さん)の女房として仕えるようになります。

小右記1008年11月1日の記述に、実資やほかの公卿が、彰子のところに皇子が生まれて50日目のお祝いに行ったとあり、「公卿は酩酊した」と書かれています。

この同じ出来事を、紫式部は「紫式部日記」で公卿たちのひどい泥酔状態を書いていると倉本一宏さんによる解説にあります。そしてこのとき、紫式部は実資に話しかけていて、「ひどく当世風に気どっている人よりも、一段とご立派でいらっしゃるようでした」と書いていると同じく解説にあります。

そして1013年5月25日の小右記には「女房〈越後守為時のむすめである。この女を介して、これまでも諸事を申し上げさせただけである。〉」という記述があります。越後守為時のとは紫式部のことです。

倉本一宏さんによれば、ほかの記事にもたびたび登場して彰子との間を取り次いでいる「女房」は、かなり高い確率で紫式部と考えられるのだそう。

となれば、「光る君へ」でも、実資はかなり重要な役どころだし、今後も出番が多そうです。

しかも、実はこの後成長した彰子が、いろいろあって父の道長と気まずい関係になった時、彰子がなにかと頼りにするのが実資なのです。

この世をば

「小右記」には、道長が詠んだと言われている有名な和歌が書かれています。

『この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたる事も無しと思へば』

です。道長の三女が皇后になり、その儀の二次会でのことだったようです。

一〇一八年十月十六日

太閤(道長)が私(実資)を招き呼んで云ったことには、「和歌を詠もうと思う。必ず和すように」ということだ。答えて云ったことには、「どうして和さないことがありましょうか」と。また、云ったことには、「誇っている歌である。ただし準備していたものではない」ということだ。「この世を我が世と思う。望月が欠ける事も無いと思うので」と。私が申して云ったことには、「御歌は優美です。お答えする方法もありません。<以下略>

「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫より

解説によると、道長自身の日記には和歌を詠んだとしかなく、その和歌そのものは書かれていないので、今にこの和歌が知られているのは、実資の小右記があったからだそうです。

出世した「僕」実資

実資が65歳の時、右大臣に任じられます。その時の喜びの小右記がこちらです。

一〇二一年七月二十五日

今日、任大臣の儀が行われた〈太政大臣に(藤原)公季、左大臣に(藤原)頼通[関白]、右大臣に僕(藤原実資)、内大臣に(藤原)教通、大納言に(藤原)頼宗と(藤原)能信〉。僕の任大臣大饗は、小野宮に於いて行った。

「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫より

倉本一宏さんは「僕」の字に「ぼく」とふりがなをふっています。そのまま素直に読むと、「右大臣はぼくだよ!」という喜びの表情の実資が浮かびます。

いちおう「僕」を調べると、「ぼく」が今のような感覚で使われるようになったのは、これよりずっと後のことのようです。

「僕」は「しもべ」とか「やつがれ」とも読み、謙遜した時に使う一人称なので、実資もへりくだって自分のことを書いたのでしょう。でも、ほかの記事では「私」と書いたりしているので、やっぱりここは特別な気持ちがこもっているような気がします。

そして実資は「賢人右府」と呼ばれるようになります。

現在の「光る君へ」は

現在、大河ドラマ「光る君へ」は、2024年6月9日の23話「雪の舞うころ」放送後で、まひろこと紫式部は越前にいます。

ちょうど佐々木蔵之介さん演じる宣孝にプロポーズされたところ。

しばらく都にいる実資の出番は少ないかもしれませんが、いずれ右大臣となって、道長の嫡男・頼通(演:渡邊圭祐さん)を25年間支えるのです。

実資自身はもちろん、政の様々なことを細かく記している実資の日記「小右記」は、まわりの公卿たちに頼りにされます。

「小右記」を読んで平安貴族を知ろう

「光る君へ」を見ている方には、若干ネタバレともなるかもしれませんが、私は「小右記」ダイジェスト版である『「小右記」藤原実資・倉本一宏編 角川ソフィア文庫』を読んで、ますますドラマの続きが楽しみになりました。

解説がついているとは言え、不勉強な私には何か所か難解な部分があり、別に調べながら読んだりもしましたが、倉本一宏さんのちょっとしたツッコミ要素のある解説もおもしろかったです。

前述した倉本一宏さんによる全16巻の現代語訳は、ドラマ人気もあって1巻だけ重版になったそうです。

まずはダイジェスト版で雰囲気を味わってはどうでしょう?おすすめです。

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