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「笑う森」荻原浩著のあらすじと登場人物を紹介・男の子が森で出会った5人のクマさん

森の中 読書
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昨年テレビで取り上げられて気になっていた、荻原浩さんによる小説「笑う森」を読みました。作者自身がインタビューに対し、「100%善人を書くのが苦手」とおっしゃっていましたが、たしかにそれぞれ自分勝手だったりする人物たちが登場します。でも完全にそれを憎めないのは、なんとなくわかる部分があるからでしょうか。昨今のSNSの在り方や、育児についても考えさせられるところがあり、もやもやしたりハラハラしたり、スカッとしたり和まされたり。いろいろな気持ちにさせられた1冊でした。今回は登場人物についてと、ざっとあらすじを感想を交えて紹介します。

公式サイトによる紹介・クマさんは誰?

新潮社の公式サイトによる「笑う森」の紹介は以下のようになっています。

原生林で5歳のASD児が行方不明になった。1週間後無事に保護されるが「クマさんが助けてくれた」と語るのみで全容を把握できない。バッシングに遭う母のため義弟が懸命に調査し、4人の男女と一緒にいたことは判明するが空白の時間は完全に埋まらない。森での邂逅が導く未来とは。希望と再生に溢れた荻原ワールド真骨頂。

新潮社公式サイトより:https://www.shinchosha.co.jp/book/468907/

行方不明になった男の子が、ASD(自閉スペクトラム症)であることもポイントで、この男の子の言動が謎を解くヒントにはなるものの、はっきりとしたことがわからないまま物語は進み、1週間も森でさまよっていたのに無事だった男の子を助けてくれた「クマさん」は誰なのか?という謎を追っていくことになります。

物語冒頭・田村武志

紅葉のきれいな神森のシーンから始まる今作「笑う森」。

最初に名前が出てくる登場人物は田村武志たむらたけし

地元消防団の団員で、神森で行方不明になっている5歳の男の子を探しています。

神森は自殺の名所になっており、肉食動物もいる森で冬が近い11月は寒く、1週間も経って見つからない5歳の男の子が生きているとは考え難い状況でした。

同じく小さな娘を持つ田村武志は、なんとか見つけてやりたいと捜索していましたが、今では子どもの死体なんて見たくないと思いながら参加しています。

そんな彼が、無事に生きていた男の子を発見するのです。

男の子を発見し、きちんとフルネームが出てくる登場人物・田村武志は、そのまま物語の主要人物として出続けるのかと思いきや、田村武志はこの後しばらく登場しません

そしてなんと、途中で思いがけないポジションの人物として再登場します。

行方不明になった男の子・真人

神森で行方不明になった5歳の男の子・山崎やまさき真人まひと

1週間も森にいたのに、何か食べたり飲んだりできていた様子。しかも見たことのないマフラーも巻いていました。

「クマさんが助けてくれた」とだけ本人が言っていて、詳細は不明です。

そして助けてくれたはずのクマさんは名乗り出ません。

真人はASDで、ひととのコミュニケーションに難があり、ひとつのことに熱中しがちです。

今は樹木に夢中。ものを並べるのが好きで、言葉は遅いけれどマネをして歌ったりしゃべったり。

どうやらとてもかわいい顔をしているらしい男の子です。

森から帰った真人の変化

森から戻った真人は、癇癪を起こさなくなっていて、食べられなかったものが食べられるようになっていたり、教えたことのない言葉を話したり歌ったり、おさまっていたはずの夜驚症(寝ている最中急に起きておびえたように叫ぶ)が再発したりしています。

その夜驚症は、怖がっているというより、何かをとめようとしている感じ。

それから火おこしのような真似も。積み木を何度も同じ形に並べたり。

この真人の、新しく言うようになった言葉や歌、言動が、森の中でのできごとに関係していて、詳細が明らかになるにつれその意味がわかったり、謎のヒントになっていきます。

男の子の母・岬

高校の同級生でもあった夫を亡くし、真人をひとりで育てる母の山崎みさきは、真人を心から愛するがんばり屋のお母さん。

樹木が大好きで、テレビに出た神森の合体樹に釘付けになった真人のために、神森を訪れたのでした。

普段から迷子になりやすい真人のことを熟知している岬は、GPSを持たせ、片時も目を離さず一緒に行動していましたが、真人のためにたった1枚樹木の写真を撮ったその一瞬で、真人がいなくなってしまったのです。

森の中で普段のようにGPSが効かず、呼んでも返事をしない子なので見つかりません。

警察に連絡し、捜索隊が出ましたが、夜になって捜索は中断。

ショックで思わず叫んでしまった「噓でしょ」というセリフと、必死にこらえて泣かなかったことが、ネット上で反感を買い、子どもを捨てたのではないか、税金の無駄遣いだ、などとバッシングを受ける事態になります。

そして、無事に戻ったものの、変化のある息子を見て、PTSDの心配と、何があったのかを知りたい気持ちが沸き上がります。

また、ネットの誹謗中傷も続く中、息子をひとりにしてしまった罪悪感にさいなまれています。

しかし、うなだれるだけの岬ではありません。岬は強くてかっこいい女性なのです。

ぜひ「笑う森」を読んで岬のすごさにスカッとしてもらいたいです。

岬の義弟・冬也

岬の亡くなった夫の弟である山崎冬也とうやは、真人にとっては優しい大好きな叔父さんで、職業は保育士のため、ASDの特性のある真人の相手のしかたも心得た頼もしい人物。

岬夫婦より6歳下の29歳で若々しい見た目、細身で眼鏡をかけています。

父を亡くし、病弱な母の代わりに、岬の亡き夫でもある兄・春太郎が稼いで冬也を大学まで行かせたそう。

借りを返せないまま亡くなった兄の残した家族を、森の事件以降、一番支えてくれる存在です。

真人の言動をうまく引き出し、謎の手掛かりにしていきます。

兄・春太郎と甥・真人とよく似ているようで、おそらくいわゆるイケメンなのでしょう。

春太郎曰く、いい大学を出ていて、真人の足取りを確認しつつ、ヒントをもとに謎解きをしていく様は、頭の良さを物語っています。

時間を遡り

真人が行方不明になった時と、捜索過程、発見された時が語られた後、物語の舞台は森をさまよっていた真人の様子を語るため、岬が真人を見失った日の夜へ遡ります。

実は真人を助けてくれた「クマさん」はひとりではありませんでした

彼らがどのように真人に関わったのか、なぜ名乗り出ないのか、それぞれの事情が読者に明らかにされます。

以降、森の中での真人の行動を追う話と、現在の真人・岬・冬也の話を行き来しながら「笑う森」は進みます。

1人目のクマさん・美那

真人が岬とはぐれた日の夜、実は捜索隊の活動中断後もひとりで息子を探し続けていた岬は、真人の近くまで来ており、それに感づいた大人が真人のそばにいました。

その人物が1人目のクマさんこと・松元まつもと美那みなです。デパートで働く32歳。

助けた内容は、真人に飲み物をあげたことと、寒さをやわらげるマフラーをしてあげたこと。

なぜ真人がクマさんと言ったのかについては、美那が森の中で「森のくまさん」を歌っていたから。

真夜中に森にいた理由は・・・死体を埋めていたから。

美那がどうしてそんな事態に陥って、その後どうなるかはぜひ実際に読んでみてください。

2人目のクマさん・拓馬

2人目のクマさんは、YouTuberの戸村拓馬とむらたくま。岬よりちょっと年上とのことなので、30代後半のようです。

「たくま」という名前を、真人は「たっ、くま?」と聞き取り、クマさんに。

拓馬がしてくれたことは、焚火で暖を取らせてくれたことと、食べ物をくれたこと。

ところが拓馬はある事情から、真人をその場に置き去りにしてしまいます。

その事情は、5歳の男の子を置き去りにするに値する内容とは思えず、後に冬也も「ひどい」と言っています。

とは言え、拓馬はその後も物語に関わる重要な登場人物です。

読み進めていくと、拓馬を憎み切れなくなるかもしれません。

3人目のクマさん・谷島

3人目のクマさんは、ヤクザの男・谷島哲たにしまてつ

たにしま、だと真人に教えるのですが、どういうわけか真人は「た、に、くま」と覚えてしまいます。

2人目の「た、くま」と混同しているようでもあり、また、谷島の体が大きく、くせ毛で顔半分が無精ひげ、服の色も茶色や黒で、見た目もクマのようだったのも影響していそうです。

クマさんたちの中で、この谷島が、真人の一番危なかった状態を助けてくれた恩人です。

この谷島パートが、私の一番ハラハラしながら読んだ部分です。

ラストについては、谷島のそれまでの来し方を思えば、致し方ないことかとは思いながらも、ちょっと切ない。

ただ、谷島と別れた後の真人のがんばりと、その後の岬と冬也の活躍で、谷島の一番望んだことはかなうので救われるかな、とは思います。

4人目のクマさん・理実

4人目のクマさんは、中学教師の畠山理実はたけやまさとみ。40代のぽっちゃり小柄な女性。真人と会ったのは行方不明になって4日目。

担任する生徒たちから嫌がらせを受け、先生たちからも煙たがられ、子どもの頃からのいじめられ体験と、愛してくれない母、いろいろなことがあって、神森で自殺しようと考えていました。

ただ、理実は、もしかしたら真人ほどでないにしても発達障害グレーゾーンにいるのでは?と思うような人物。

思い込みが激しく人の話を聞かない、自分ばかりしゃべる、承認欲求強め。

真人と出会ったことで自殺は中止(もともと本当は死にたくなかった)、真人を発見し助けた人物として自分が紹介されることを想像し、真人の障害がわからず、すべて育てた親のせいだと思い込みます。

理実が真人にしてくれたことは、ウェットティッシュで体を拭いてあげたことと、飲み物とお菓子をあげたこと。

なぜクマさんなのかというと、理実が真人に自分のことを「悪魔」だと言ったことから、「あっ・・・くま?」と真人に認識されてしまったため。

いちおう理実は、捜索隊の近くまで真人を送るのですが、これまた自分勝手なことをしてしまったために直接連れて行くことができず、近くで別れてしまったので、真人はまた森に逆戻り。

かなり困った人物の理実ですが、教師としての正義感はあるようで、拓馬ほどではありませんが彼女もこの後も出てくる重要人物です。

5人目のクマさんは?

4人目までがわかっても、理実と別れて以降の発見されるまでの3日ほどの真人の状況が不明でした。

ただ、発見された時、真人は何かを食べていたことはわかっていて、冬也はきっとまだ真人に関わった人物がいると考えていました。

そこで冬也は休みを取り、神森に行って真人と同じ行程をもう一度歩いて追うことにしたのです。

そしてわかった5人目とは・・・。

この5人目に関しては、フィクションとは言え、自分より小さな弱いものを守ろうとする本能みたいなものを考えさせられました。

もしみんながそんな本能を持っていて、それを呼び覚ますことができたなら、世の中の悲しい事件のいくらかと、世界の紛争がなくなるのではないかと、そんな大きなことまで考えてしまいました。

「笑う森」を読んで考えさせられたこと

冒頭にも書きましたが、「笑う森」はいろいろなことを考えさせられました。

自然の力

神森の中に存在する合体樹の描写に、ちょっと鳥肌がたちました。

割れた巨木の裂け目に別の樹木の種が育ち、お互いが一本の樹のようになってそびえている風景を想像し、その根元に別の生物が住みつくさまを想像し、真人が合体樹に魅せられた気持ちが少しわかるような気がしました。

美那の故郷に伝わる言い伝えも、そんなものはおとぎ話だとはねつけてしまえない何かを感じます。

教育現場のあれこれ

理実パートで、今の教育現場のことが書かれています。

先生方にある事なかれ主義、モンスターペアレント、学級崩壊、いじめ、などなど。

それから真人のような特性を持っている子どもたちに適した保育をする現場のことも。

私の育った古い時代は、不登校は登校拒否と呼ばれ、親子共々後ろめたい気持ちにさせられたと思いますが、今は学校に固執する事はないという考えが主流になりつつあります。

通信制の学校に通う子もどんどん増えています。

教員不足なども問題になっていますが、先生方が誇りをもって気持ちよく働ける教育現場が整い、その子その子にあった方法で、その子がのびのび学べる環境が選べる日本になるといいなと思います。

親じゃない大人のちょっとした手助け

谷島にしろ理実にしろ、残念なことに親に十分助けてもらえなかった子たちのことも考えさせられました。

岬の夫の春太郎も、悪い意味ではなくとも親の助けが得られなかった人物です。

もし誰かが手を差し伸べていたら、もっと違う人生になったのではないかと。

「笑う森」で救われるのは、谷島も理実も、自分がされたことをほかの子にしなかったことです。

谷島は、わが子を愛し、他人の子である真人を助けます。

理実は、いい形とは言いにくいけれど真人をかわいがり、自分に嫌がらせをしていた生徒の心亜ここあがつらい環境にあるとわかると、心亜をかばいます。

5人目のクマさんだって、他人の子である真人を助けてやります。

なんとなく、「水車小屋のネネ」も思い出しました。無理し過ぎない範囲で、ちょっとずつ手を貸してあげられる、そういう優しいつながりが素敵に思えます。

「水車小屋のネネ」については以下の記事をどうぞ。

SNSの在り方と情報の利用の仕方

物語の中で、岬や冬也はネット上でそうとうな誹謗中傷を受けるのですが、まったくでたらめの内容ばかり。

そしてそれを広めた面々は、「だってみんな言ってた」などと反論します。

そのみんなとは、顔も名前も知らない誰かであり、勝手に流された何の根拠もないでまかせ。

自分は隠れて相手だけ晒す行為も。

正義を気取って悪い母親を糾弾するつもりだったのか知りませんが、ある登場人物のセリフで、「人にはやるけど、自分はやられたくない。」「知られなければ何をやってもかまわない?」と出てきます。

最悪な詐欺事件も後を絶ちませんし、本当の情報ばかりじゃないことをよくわかった上で、きもちよく利用したいです。

女性の立場の弱さ

美那の事件の発端のいくつもあるだろう理由のひとつには、日本では女性であることが弱さになってしまうことがあるのかなと感じました。

岬を強くした原因の昔の事件も、岬は全く悪くないのに、女性という弱い立場のためのつらさがあると思います。

田村武志の妻だって、物語上では可愛げのない女性に見えますが、たくさんいるであろう夫に付き従うしか手のない日本の女性たちの姿なんだろうと思うのです。

「笑う森」の最後は

いろいろなことを考えさせられた「笑う森」ですが、最後はすっきり終われたと思います。

読んでいく中で、真人がどんどんかわいらしく思えてきて、真人のことはもちろん、岬や冬也を応援したくなります。

最後の真人と岬のやり取りは、岬でなくても涙ぐんでしまいます。(悲しい涙ではありません)

冬也の中には、おそらく岬へのほのかな想いがあるのでしょう。

5人目のクマさんの謎を追う冬也の、自分自身への問いかけがそう思わせます。

岬の方はそこまでではないのでしょうけれど、岬曰く「春太郎ぐらいに大切な人」に近い将来、冬也がなりそうな気がします。

そして、拓馬と理実も、心亜も、みんなガンバレ!

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