本屋大賞を受賞した1作目「成瀬は天下を取りにいく」から2作目「成瀬は信じた道をいく」と続いた、宮島未奈さんの小説は、3作目「成瀬は都を駆け抜ける」でシリーズ完結となりました。寂しい気もしますが、気になっていた登場人物たちのその後もわかって、成瀬シリーズらしい終わりだったと思います。今回はその「成瀬は都を駆け抜ける」のあらすじを、感想をまじえて紹介します。
成瀬シリーズ完結
宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」は、デビュー作ながら本屋大賞をはじめとする数々の賞に輝いた小説です。
あらすじは以下の記事で
そして続編となる2作目は「成瀬は信じた道をいく」。
2作目でも、主人公・成瀬あかりは魅力的でした。
あらすじは以下の記事で
そして今回の3作目「成瀬は都を駆け抜ける」をもってシリーズは完結とのこと。
ただ、作者の宮島未奈さんは、インタビューに答えて、「何年後かに、もしかしたら復活するかもしれないけど、」と発言しているので、ひょっとしたらまた成瀬に会えるのかもしれません。
やすらぎハムエッグ
京都大学に入学した成瀬あかりがわかる第一話。
語り手は、成瀬と同じ理学部一回生となる坪井さくら。
坪井は「小さな頃から嫌なことばかりだった」と言います。
本人曰く、勉強以外のことは何もかもが平均以下だった、とのこと。
その勉強も、褒めてくれる両親ではなく、友達ともうまくいかない中で、唯一拠り所となっていた「早田くん」の志望校が京大の理学部だとわかり、一緒に行くために坪井も京大理学部を目指したのです。
ところがその早田くんは、坪井の知らない間に志望校を東大に変えていました。
入学式に落ち込んで転んでしまった坪井に声をかけ、救いの手を差し伸べてくれたのは、主人公・成瀬あかり。
もう読んでて「成瀬だ!」とすぐわかってしまう登場シーン。
この時の成瀬の格好は、おばあちゃんの形見の振袖。
「成瀬は都を駆け抜ける」の表紙になっている着物です。
そして5年前に亡くなったというおばあちゃんは、「成瀬は天下を取りにいく」で成瀬が西武に通い続けた最終日の前の日に亡くなってしまったあのおばあちゃんでしょう。
神奈川から来た坪井目線で、成瀬あかりのことが、これまでのことをざっと絡ませながら読者に紹介されます。
そして、成瀬と出会った坪井が少しずつ前向きになっていくさまを見ていくことができます。
成瀬のセリフで印象に残ったのは、「成瀬さんにわたしの気持ちなんてわかるわけない!」と思わず八つ当たりしてしまった坪井に対して
「他人の気持ちがわかる人間がいたらエスパーだ」
というもの。
そう、その通りだと思います。わからなくて当たり前。
でも成瀬は、しかし推測できると言って、大事な人間と離れ離れになるつらさは知っているからな、と。
そして
「島崎のことになると弱いんだ」
と言います。
成瀬の幼馴染、絶対の相棒・島崎みゆきのことです。
島崎は、家族と一緒に東京に引っ越してしまいました。
無表情でわかりにくい成瀬の一面が伝わってきます。
そして、「早田くんがいたから生きてこられたの」という坪井に対して言う、
「きっと、それが彼の役目だったんだ」
役目、という部分を、言われた坪井が復唱しますが、私も役目という部分に感じるものがありました。
誰でも、自分の知らないところで誰かにとっての何かの役目があるのでしょう。
いろんなひとと関わって影響を与え続ける成瀬あかりには、たくさんの役目がありそうです。
実家が北白川
第二話の語り手は、農学部一回性の梅谷誠。
この梅谷の実家が北白川で、「京大北部キャンパスから銀閣寺方面に広がる地域」なのだそう。
梅谷は、サークル勧誘でにぎわうキャンパス内で、森見登美彦作品に興味を持って集まった『達磨研究会』に所属することになります。
梅谷の父親も森見登美彦のファン。
森見登美彦は、「夜は短し歩けよ乙女」が代表作で、達磨研究会会長の木崎は、そこに登場する黒髪の乙女に会いたがっています。
そこで黒髪の乙女を探す梅谷が目をつけたのが成瀬あかり。
坪井と仲良くなった成瀬は、坪井と一緒に達磨研究会の面々と会うことになります。
この達磨研究会の梅谷と、会長で裕福な家に育った工学部二回生・木崎と、経済学部二回生のイケメン鍋奉行・大曽根と、工学部二回生の関西弁・橿原は、このあとのストーリーでも登場します。
大曽根、イケメンの上になかなかできた人物です。
ぼきののか
「ぼきののか」は、日商簿記検定一級合格を目指すYouTuber・田中ののかのチャンネル。
成瀬シリーズにおいてYouTuberといえば、「成瀬は信じた道をいく」に登場した城山です。
京大受験の日に成瀬が出会った城山友樹は、高知から京大を受験しに来たYouTuberで、自分の動画の企画でヒッチハイクで京大まで来て、雪も降っていたのにテントで野宿しようとしていた男子。
見かねた成瀬が家へ連れ帰るということがあり、城山も合格して工学部一回性になっています。
田中ののかは立命館大学二回生。
この田中が、ある失敗をして危機に陥った時に、成瀬が助けを求めたのが城山です。
なんやかんやあって、成瀬はこの田中と共に簿記検定を受けることになります。
そしてこの簿記の勉強会に、坪井・梅谷・城山も加わることに。
なんと達磨研究会の先輩方も応援に来てくれたりと、なかなか楽しい展開に。
登場人物みんな優秀だなと改めて実感もします。
そういう子なので
今度の語り手は、成瀬の母・美貴子。
父・慶彦は「成瀬は信じた道をいく」で語り手になっているので、これで両親ともに語り手となりました。
慶彦は、人のいい娘想いの優しいお父さんで、ときに空回りもするキャラクターでしたが、美貴子に関しては、いつもどっしりと構えた感じで、動じないさまが成瀬っぽいと思っていました。
ですが当然のことながら、美貴子には美貴子の想いがその都度あったわけで、美貴子の後悔していることが語られます。
この第四話は、滋賀のローカルテレビ局の番組で成瀬が取り上げられることになり、そのインタビューに美貴子も応じることになったことで、美貴子のこれまでが思い返される話になっています。
母として見守る我が子への想いと、娘としての母への想いの両方がじんわり伝わってくる話でした。
親愛なるあなたへ
この話の語り手はあの西浦航一郎です。
「成瀬は天下を取りにいく」で、競技かるたの高校生大会で広島代表として参加し、そこで出会った成瀬に恋した男子・西浦航一郎です。
友達の中橋結希人の後押しもあって、成瀬に告白したのでした。
スマホを持っていなかった成瀬と文通を続けていた西浦。
前作「成瀬は信じた道をいく」で、西浦の名前は出ないものの、成瀬が広島の友人がひとり暮らしをするのに協力している場面があり、おそらく西浦が進学で成瀬の近くに引っ越してきているのだろうと予想していました。
大学生になってスマホを持った成瀬とLINEでつながったものの、成瀬は忙しくて全然会えません。
せっかく京都に来たのに会えない西浦の、かわいい様子が読めて楽しいお話です。
今までの登場人物も次々出てきます。
青春だらけのいいお話ですが、最後にあった、
「ひとつひとつの行動が積み重なって、なぜか今ここにいる。ー中略ー この際全部飲み込んでみよう。」
というのが、奥が深くて考えさせられました。
琵琶湖の水は絶えずして
最終話の語り手は、やっぱり成瀬の相棒・島崎みゆきでした。
なんと東京にいる島崎のもとに成瀬から速達が。
「入院している。話したいことがあるから来てくれないか」と。
春休み中の島崎は急いで滋賀県へ。
成瀬は盲腸で、重病ではなかったものの、びわ湖大津観光大使としてのイベントがあり、出られない自分の代役を島崎に引き受けてほしいというのです。島崎しかいない、と。
地元愛にあふれる成瀬ですが、イベントへの熱の入れようはすさまじく、戸惑いながらも島崎は引き受けます。
しかしその後、実はそのイベントが、成瀬の観光大使としての最後の仕事だとわかり、プレッシャーを感じる島崎。
1作目・2作目同様、最終話は登場人物総出で盛り上がります。
実はこの前のお話「親愛なるあなたへ」の中で、西浦は、大階段かけあがり大会におじさん3人とチームを組んで出場する成瀬を見かけています。
このおじさん3人の正体もわかります。
厳密にいえば、3人ではなく3人のうちのふたりの正体ですが、「成瀬は天下を取りにいく」の読者であれば、残りの一人の正体もわかるでしょう。
懐かしい面々が出てきて、最終回っぽい雰囲気になっていきます。
そして成瀬シリーズ完結。
気持ちよく読める小説でした。
ぜひとももう少し大人になった成瀬の物語も読みたいです。




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