「桜ほうさら」宮部みゆき著・ネタバレありで感想

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宮部みゆきさん著「桜ほうさら」は、2013年に刊行されドラマ化もされた作品です。

私は2020年刊行の「きたきた捕物帖」の方を先に読んでいました。「きたきた捕物帖」は、宮部みゆきさんが生涯書き続けていきたいと語った物語です。その「きたきた捕物帖」の舞台が「桜ほうさら」と同じなのです。「きたきた捕物帖」の主人公が住む部屋の前の住人が、「桜ほうさら」の主人公だと知って、それはぜひ読みたいと思いました。

ということで、ネタバレありで私の感想をまじえて紹介します。

桜ほうさら・ささらほうさら

この本のタイトル「桜ほうさら」とは何のことだろうと思っていましたが、これは「ささらほうさら」からきているようです。

主人公・笙之介(しょうのすけ)は22歳。

彼が国許で書生として仕えていた佐伯老師のもとで働く老女・そえさんが、なにかと苦労をしている笙之介に向かって、「あんたも〈ささらほうさら〉だねえ」と言います。そえさんは甲州の出身で、あれこれいろんなことがあって大変だ、というときに言う言葉なのだそうです。

笙之介は、「ささらほうさら、か」「きれいな言葉ですね」と言います。

この「ささらほうさら」に、この物語で重要なシーンにある桜を合わせたものがタイトルになっているのです。

第一話 富勘長屋

第一話「とみかんながや」

そうです、後に「きたきた捕物帖」の主人公・北一が住むことになる富勘長屋です。

北一の部屋の前の主が笙之介なのでした。

物語は、これも「きたきた捕物帖」に登場した村田屋の治兵衛が、主人公・古橋笙之介に声をかけるところから始まります。笙之介は、治兵衛から写本の仕事を請け負って生活しています。笙之介は、武芸はさっぱりでしたが、絵をかいたり文字を書いたりする腕前は確かで、手先も器用でした。

第一話は、笙之介の現在の生活から始まり、過去のシーンにもどって、それまでの経緯が語られます。

笙之介の国許で起きた事件

笙之介は、小さな藩でお役目につく武士の家の次男でした。父は、剣の腕はさっぱりでしたが優しくて穏やかで誠実なひとでした。笙之介は、その父に似たようです。

しかし二つ上の兄・勝之介は武芸に秀でた精悍な若者で、この兄と母は、父を頼りなく思っており、あまりうまくいっていませんでした。

この母も訳ありで嫁いできた女性で、本来、古橋家より上の家柄であったのに、3度目の結婚で格下の家に嫁ぐしかなかったようで、武士らしい長男を愛し、夫に似た頼りない次男の笙之介には期待していないようでした。

ある時その優しい父に、道具屋「波野千」から賄賂を受け取っていたという疑いがかけられます。当初、否定していた父ですが、父とまったく同じ筆跡の証拠となる文書が見つかります。父自身、自分が書いた字だと認めるような手跡(筆跡)でしたが、父には書いた覚えはないのです。

ところが、ずっと否定してきた父が、一転して罪を認めてしまいます。それは家族のためでした。

実は、母が兄・勝之介を高い役目につけるため、お金を使って裏で方々に根回しをしていたことが明るみになり、その金銭の元が波野千から受け取った賄賂だと疑われたのです。実際は、母の実家のお金ですが、格式の高い家柄の母の実家が、そんな卑しいことに手を染めたと認めるはずはなく、母と兄を守るため、父はやってもいない罪をかぶったのです。

そして父は庭にある畑で切腹。兄が苦しむ父を後介錯したのでした。

古橋家は廃絶。勝之介は母の実家の取りなしで道場へ、笙之介は、笙之介を見込んでくれていた佐伯老師が書生として自分の所へ呼んでくれたのでした。

笙之介が国を離れて江戸に出た経緯

そんな笙之介を母が訪ねてきます。母がわざわざ自分を訪ねてきたと喜ぶ笙之介でしたが、母親らしいあたたかい想いは伝わってきません。代わりに、古橋家再興のため(というのは建前で、その実は勝之介のため)笙之介に江戸に行くよう言います。

江戸にいる留守居役(江戸にいて藩と幕閣の交渉や連絡をする)である坂崎重秀が助けてくれるという話でした。

この坂崎重秀は、江戸では周りに「東谷(とうこく)」という号で自分を呼ばせている人物で、身分は高くても、飾らない気さくな人柄のようです。

この東谷様は、笙之介の母が最初に嫁いだ夫の叔父です。元夫と東谷様は年の離れた兄弟のように育ったため、東谷様は嫁となった笙之介の母のことも妹のようにかわいがっていました。その後、この母の最初の夫は亡くなってしまったのですが、その後も東谷様は笙之介の母のことを気にかけていたようです。笙之介の母の良くない部分もわかっており、3番目に嫁いだ笙之介の父の優しい誠実な人柄のこともわかっていました。

その東谷様は、笙之介の母には古橋家再興のためと言って、笙之介を江戸に呼びましたが、実は他の理由でした。残念ながら再興はかなわない、だが勝之介さえどうにかなれば母は満足するはず、それは母の実家がどうにかする、だから母や兄のことは気にするな、だが笙之介はあのまま国にいては佐伯老師の死後に身が立てられない、江戸に出て来た方が良い。要するに笙之介を案じて江戸に呼び寄せたようなのです。

そして、東谷様は笙之介の父は賄賂など受ける人物ではない、無実であると断言したのです。笙之介、よかったね!信じてくれるひとがいた!

東谷様は言います。最初は波野千の中での権力争い。そこから藩の中の権力争い。それに父は利用されたのだと。その黒幕は誰だ?

そしてここからが笙之介の大事な役目。

例の、他人の手跡をそっくりそのまま真似ることのできる人物が、藩の中の権力争いに利用されようとしている。先代の殿の遺言の偽物を作るために。その偽文書の作り手は江戸にいる。それを見つけ出すのが笙之介の役目なのです。それは父を陥れた仇なのだから。

というわけで、文書に関わる仕事をした方がいいと東谷様が紹介してくれたのが治兵衛。

そして富勘長屋の差配人・勘右衛門に紹介されて住まいは富勘長屋に。

こんな感じで、出だしはちょっとヘビーな仇討ちもの時代劇のような雰囲気が漂っていました。

恋の予感がする桜の精のような少女

ミステリー要素も入りながら仇討ち話のような中で、恋に繋がりそうなのが、笙之介の見た少女です。

ある早朝、富勘長屋の部屋から見える川べりの桜の木の下に立っていた少女を、笙之介は桜の精のようだと思いました。幼い子のするような切りそろえた髪で、夢の中だったのかもしれないと思うような少女を忘れられない笙之介。

顔の広い治兵衛にその少女のことを聞いてみますが、治兵衛は知らない様子。

しかし本当は治兵衛さん、その少女を知っていて、あとから動きがあるのです。

一方で笙之介、富勘長屋の住人・おきんに惚れられてるようで。

魅力的な登場人物たち

宮部みゆきさんの書く物語が大好きで、その文章が大好きで、だいぶ何冊も読んでいますが、いつも思うのは、膨大なわき役たちそれぞれにちゃんと設定されている、魅力的な背景と人物像がすばらしいということです。

いいひとばかりではないけれど、それぞれの人物の経験から来る重い言動が、とても響いてくるのです。

富勘長屋の住人達も、それぞれ笙之介と関わってきますが、「きたきた捕物帖」でもこの富勘長屋を舞台にしたということは、宮部みゆきさんもお気に入りの長屋なのかなと感じます。

いかにも商売人の治兵衛も、人の世話をよくやくひとだし、なにより東谷様の信頼を得ているところがすごそうだなと思わせます。

なにかあるとひょっこり顔を出す、筆や墨を売る勝文堂の六助はいいお兄ちゃんって感じだし、手習い所の武部先生も、強面のくせに子どもたちをよく理解しようとするいい先生で(武部先生もきたきた捕物帖に登場)先生の奥様も多くは語らないけどできた女房、という感じです。

そして東谷様のいいひと(?)らしい川船宿・川扇の女将・梨枝もかっこいいのです。どういう生い立ちなのでしょう?仲睦まじい両親に育てられたようですが、あれだけできる大人の女性になっているところをみると、相当苦労されたに違いないと想像します。

加野屋の花見の会と大食い競べ

第一話の後半は、国許で賄賂を送ったという波野千の江戸での取引先でもある「加野屋」主催の花見の会と、そこで催された大食い大会が舞台です。

東谷様に、探って来いと言われた加野屋のこのお祭りのような催しに、誰でも参加できるということで大食い競べ(くらべ)に富勘長屋に住む少年・太一と、武部先生も参加することになり、長屋の住人がそろって見に行くことに。

加野屋と波野千のつながりに関しては、そこまで大きな収穫はなかったものの、笙之介、このお祭りで桜の精に再会します。

桜の精、ではなく和香は、やっぱり治兵衛と知り合いでした。ただここでは、お互いの顔を遠くに認めただけでやりとりはありません。

実は和香、顔と体の左半分に痣があり、それを普段は頭巾で隠していて、めったに人前に出ないのでした。その痣はかなりはっきりしていて、そこそこの距離があっても気付くほど色が違うのに、笙之介は2度とも気付かず、きれいなひとだと思います。

桜の精のようだと思ったという笙之介の言葉を聞いた治兵衛、まずは和香に了承を得てから和香のことを笙之介に話そうとしていたため、初めて聞いた時は知らないふりをしたのです。

笙之介の話を治兵衛から聞いた和香は、彼に興味を持ちながらも、痣のことがわかればただのお化けだ、もう会いたいと思うことはないだろうと、痣のことをかなりコンプレックスに思っているようで、笙之介と花見の会で目が合うとすぐ隠れてしまいました。

でも笙之介は痣のことなんて目に入らなかったし、それを聞いても会いたいと思ったわけです。

そしてここで笙之介は治兵衛に、手跡を真似る達人を探してみてほしいと頼みます。

第二話 三八野愛郷録

第二話「みやのあいごうろく」

第一話のラストは、富勘長屋に帰った笙之介に、おきんが、青白い顔をしたお侍さんが来てるよ、と言ったところでした。

第二話は、ちょっと話がそれて、奥州・三八野藩の侍の長堀金吾郎が笙之介を突然訪ねてくるところから始まります。三八野藩は、笙之介の国許の藩と似たり寄ったりの小さな藩で、好き勝手やってきた藩主の下、深刻な財政難に陥って藩主が代替わりしたばかりというところ。

なぜそんなところからひとり江戸に来たかと言うと、古橋笙之介なる人物を探してやってきたと。そして同姓同名「ふるはししょうのすけ」の人違いの10人目が笙之介なのでした。

親子ほどに歳が離れていそうな金吾郎の疲れ切った様子に、お人好しの笙之介は放っておけなくなり、自分の夕飯を食べさせ、事情を聞き、協力することになります。

大殿が書いた暗号文を解け

金吾郎が仕えるのは、もう引退した大殿、つまり藩を財政難にした元藩主です。

その大殿が何やら存在しないつくりものの漢字をひたすらに書いているが、誰にも読めないし、大殿も何も教えてくれない。それは大殿が若い頃知り合った「古橋笙之介」とやりとりした暗号らしい。そこで、古橋笙之介を探し出して暗号文を解読してもらいたい、ということでした。

しかしもう古橋笙之介の手掛かりはない様子。

笙之介は暗号解読を手伝うことにしました。まったく、お人好しなのです。

人情と恋と

笙之介、時間も忘れて解読に没頭しますが、なかなか解けません。

夢中になり過ぎて閉じこもり、挨拶にも気づかない笙之介を長屋の住人たちが心配して、勘右衛門まで登場。みんなに心配されていました。

勘右衛門や六助にもヒントをもらいましたが解けず、武部先生を頼ったら、子どもたちが流行り病でそれどころではなく、長屋の住人の習い子であるおかよも寝ていると知ります。おかよの母親のお秀は自分を心配してくれたのに、全然気づかなかった笙之介は反省。

子どもたちの看病をする武部先生に代わり、病にうつらなかった子どもたちの読み書きを笙之介がみることになりました。

そしてこんどは治兵衛をたずねて、治兵衛のところの老番頭・帚三(ほうぞう)さんの書物に関する膨大な記憶と知識を借りて暗号の解読に励みますが、解けず。

こんどは手習い所の子どもたちにも見せて意見を聞きます。こういうところ、笙之介ってすごいと思います。

いろんなひとにいろんな角度からの意見をもらいながらも解けない暗号文。

子どもたちが帰った後、子どもたちの仮の手習い所として2階を借りていた鰻屋「とね以」に現れたのは、なんと和香。治兵衛から、笙之介がとね以で子どもたちを見ていると聞いた和香が訪ねて来たのです。

ここで、初めて笙之介と和香はきちんと話をするのですが、和香、自分の痣に引け目を感じてはいても、実はけっこう勝ち気で負けず嫌いだし、頭もよくて、笙之介は和香のことを「おもしろい」と感じます。

そこへ差し入れに現れた美貌の女性・川扇の梨枝の手前、少々意地になる和香に、笙之介は一喝して喧嘩になりますが、その場で梨枝がうまいこと仲直りの方向に持っていきます。

そして和香が思いついた暗号解読の作戦。

暗号は

和香の思いついた作戦により、暗号は解読されます。暗号を知っている人物が現れるのです。

結論から言うと、暗号は大殿の若き日の思い出をあらわすものでした。

それがわかって、金吾郎は国に帰って行きます。

元藩主がひたすら書く、誰にも読めない暗号文に、なにやら機密文書のようなあるいは陰謀とか、すごい展開になるかと思いきや、第二話はどちらかと言えば人情話と恋の話といったところでした。

解読のため何度か会ううち笙之介は金吾郎と親しくなっていくのですが、出来の悪い元藩主を思いやる家臣がいない中、ひとり誰の助けも借りずはるばる江戸までやってきた金吾郎の想いや、苦労した昔の飢饉の話など、ちょっとぐっとくるし、その話を聞いた笙之介の気持ちもぐっとくるのです。

隠居して昔を思う大殿の気持ちや、暗号を読めた人物の昔の思いも、深い思い出なんだなあと。

そういう経験を積んできたひとの言動はやっぱり重くて、金吾郎が売れない鰻屋「とね以」の主人夫婦を奮起させるやりとりがあるのですが、それがとてもよかったです。

その時の金吾郎がとね以の主人に言う、「よく考えてごらん。そなたの父が真に望むことはどちらであろう。」というセリフが笙之介の心に残りますが、これが物語終盤に生きてきます。

第三話 拐かし

第三話「かどわかし」

三話は治兵衛行方不明から始まります。幸い治兵衛は無事だったのですが、治兵衛が帰らなかった理由は治兵衛の知るお店の一人娘が誘拐されたからでした。

その娘を救うため、笙之介の謎解きが始まります。

この第三話では、最初からどうやらなにかあったようだった治兵衛の過去の事件がわかり、笙之介と和香の仲が少し進展し、親子関係のままならないことや、真実を知ることがはたして幸せなのかを考えさせられたりします。

それから私の好きな登場人物である、和香のお守り役・おつたが登場します。彼女は縦にも横にも大きい女性で、頼りがいがあってチャーミング。

それからみんないいひと達なんだなあと。笙之介は相手がまったく知らないひとでありながら、治兵衛が助けたいと思うひとだからと、危険な用心棒を引き受けます。そして武部先生も助太刀してくれます。川扇の面々も何も言わず協力してくれるし。

そして東谷様が強いことも判明。

第四話 桜ほうさら

第四話「さくらほうさら」

最終話です。今までの物語の伏線回収、登場人物達の秘密が明かされる、謎の解明、一気に進んでいきます。

治兵衛が笙之介に隠していたことが明かされ、物語序盤で治兵衛が笙之介に頼んだ仕事の謎も明らかになります。押込御免郎(おしこみごめんろう)というふざけたペンネームの人物が書いた小説を、笙之介に書き直し・加筆してほしいという仕事だったのですが、この仕事が笙之介にとってはなかなか難しく、ちっとも仕上がらないままで第四話まで引っ張っていたのです。この押込御免郎が誰なのかも判明します。ここで繋がるか、と。

そして東谷様も笙之介に隠していたことがありました。

そして笙之介の父の事件の真相もわかります。

長屋の住人たちや、今までの登場人物達も活躍し、最後まで一気に読めます。

ちょっと本編とそれたような内容だった第二話の金吾郎ことも最終話で生きてきます。

最終話で私が一番気になっていたのは、笙之介が物語の結末でどうなるかということでした。

それというのは、「きたきた捕物帖」では、主人公・北一が富勘長屋に移り住む時、富勘長屋のそばで一昨年、浪人が切腹し、その後まもなく富勘長屋の住人だった若い浪人(笙之介のこと)が闇討ちにあって命を落とした、とあるのです。

笙之介が死ぬのは嫌だな、そうではないといいなと思いながら読み進めていくと、浪人切腹事件が語られます。この切腹した浪人も後々関わってくるのですが、え?まさか本当に笙之介が死んじゃう?と不安にかられます。なにしろ宮部みゆき作品、けっこういいひとが死んでいくことがあるので。

和香とはどうなるのか、偽文書作成した父の仇はどうなるのか。ラストは?

ぜひぜひ最後まで読んで、ほっこりしたり切なくなったり笑ったりしてください。

きたきた捕物帖へ

桜ほうさらを読み終わると、また「きたきた捕物帖」を読み返したくなりました。「きたきた捕物帖」はまだまだ続くでしょう。桜ほうさらの登場人物たちがまだまだ活躍しそうです。

また、大きく繋がっているのは桜ほうさらですが、「きたきた捕物帖」は他の宮部みゆき作品とも繋がっています。ちょっと名前がでてくるだけ、というものもありますが、宮部みゆきファンはそんな繋がりも楽しめます。

更に「きたきた捕物帖」第2弾「子宝船」を読むのも楽しみです。

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