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綾辻行人著「十角館の殺人〈新装改訂版〉」辻村深月が影響を受けたミステリの感想

月夜 読書
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18年に本屋大賞を受賞した「かがみの孤城」の作者である辻村深月さんが、子どもの頃に読んで影響を受けたミステリが、綾辻行人さんの「十角館の殺人」だと、ある記事で知りました。辻村深月さんの「辻」は綾辻行人さんの「辻」をもらったそうです。そこまで影響を受けたのならぜひ読んでみたいと思った私は、新装改訂版を読みました。このミステリは終盤に読者を大いに驚かせる一行があるので、そのネタバレは避けつつ紹介します。

辻村深月著「かがみの孤城」について

2022年にアニメ映画にもなった辻村深月さんの「かがみの孤城」は、2018年に本屋大賞を受賞しています。

児童文庫版やコミック版にもなっている人気作品です。

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。

ポプラ社公式より:https://www.poplar.co.jp/pr/kagami/

私はハードカバー版を読みました。

上記の引用にある7人の共通点が途中で判明します。

しかし読み進めていくと、小さな違和感がところどころに見受けられ、その違和感がもとになって、その7人の繋がりと立場の違いがわかってくるので、ミステリ要素のある物語です。

ただ、私のようなある程度の年を重ねたひとなら、この謎解きはかなり簡単だと思われます。

この作品の謎解きを純粋に楽しめるのはやっぱり、この物語の登場人物たちと同年代の中高生でしょうね。

でも読みだしたら止まらず、一気に読める本でした。

綾辻行人著「十角館の殺人」について

さて、上記の辻村深月さんが名前の一文字をもらうほどに大きく影響を受けたという、綾辻行人さんの「十角館の殺人」は、もともと1987年に発表された、綾辻行人さんのデビュー作でした。

それを20年経った2007年に、文庫版の新装改訂版として刊行されたのが、私が読んだ「十角館の殺人〈新装改訂版〉」です。

新装改訂版での違い

綾辻行人さん自身のあとがきによると、新装改訂版での違いは

  • 装画変更(故・辰巳四郎氏から喜国雅彦氏へ)
  • プロット・ディテール・文体は元の形を残した
  • 旧版よりきれいで読みやすく、なおかつ別物感のないテクストへ全面改訂

とのことでした。

旧版を知らずに読みましたが、時代の違いを感じるものの、違和感なく読めました。

「十角館の殺人〈新装改訂版〉」のあらすじ

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける! 1987年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。(講談社文庫)

すべてはここから。清冽なる新本格の源流!大学ミステリ研究会の七人が訪れた十角形の奇妙な館の建つ孤島・角島。メンバーが一人、また一人、殺されていく。「十角館」の刊行から二十年。あの衝撃を再び!

講談社BOOK俱楽部より:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000204571

1級建築士の私としては、建築家がらみで風変わりな建築物が舞台とあってなかなか楽しみでしたが、建築物を楽しむ要素はほんの少しでした。

出だしは、犯人が殺人の計画を立て準備した後に、ひとりもの思いにふけるプロローグから。

その後、

 第一章 一日目・島

 第二章 一日目・本土

と、第八章の四日目まで、島と本土の二つの舞台を行き来します。

第九章の五日目は、島のみが舞台となり、第十章の六日目は基本的に本土が舞台ですが、事件後の島の捜査をするシーンが盛り込まれています。

そしてその六日目最後の一行で、読者は驚かされるわけです。

その後、第十一章の七日目で、事件の全容が書かれた新聞記事を読むことができ、読者はここで直前の一行の驚きを引きずりながら、事件の流れを読み解いていくことになります。

続く第十二章の八日目が最終章となり、最後にプロローグと対をなすエピローグで物語は終わります。

「十角館の殺人〈新装改訂版〉」の登場人物

この物語は、前述の通り島と本土を行き来しますので、それぞれに登場人物たちが活躍します。

島の主な登場人物

引用したあらすじにあるように、大学ミステリ研の7人が主な登場人物です。

島までは、初老の漁師が息子と一緒に船を出して、ミステリ研の6人を島に送ります。

残りの一人は、島を買い取った伯父に頼んで、十角館をミステリ研のために借りていたため、島に先乗りして準備をしていました。

ミステリ研のメンバーは、慣習として海外の有名作家の名前をニックネームとして使っていて、事件が終わるまで本名はわかりません。

漁師親子は、6人を送ると7日後にまた迎えに来ると約束をして帰り、そこから誰もいない島での7人の生活が始まります。

その7人は、登場順に以下の通りです。

  1. エラリイ 法学部3回生
  2. カー 法学部3回生
  3. ルルウ 文学部2回生
  4. ポウ 医学部4回生
  5. アガサ 薬学部3回生
  6. オルツィ 文学部2回生
  7. ヴァン 理学部3回生

アガサとオルツィは女性です。

本土の主な登場人物

  1. 江南 孝明(かわみなみたかあき)大学の3回生で、元ミステリ研
  2. 中村 紅次郎(なかむらこうじろう)建築家・中村青司の弟
  3. 島田 潔(しまだきよし)紅次郎の大学の後輩
  4. 守須 恭一(もりすきょういち)江南の同級生で、現ミステリ研 

本土の始まりは、江南の家に届いた奇妙な手紙から。

お前たちが殺した千織は、

私の娘だった。

この時代、個人所有されるのがまだ少なかったワープロで打たれた手紙で、差出人は中村青司。

考え込むうち、江南は、千織(ちおり)の事件と中村青司の事件のことを思い出します。

好奇心旺盛な江南は、この手紙がほかのミステリ研メンバーに届いているか確認しましたが、島に行っているため留守ばかりで、実家住まいのひとりだけは家族に聞いて、同じものが届いているとわかりました。

その後江南は、なんと中村青司の弟の紅次郎の住所を突き止め、訪ねていくのです。

紅次郎の家にも青司からの手紙が届いていました。

千織は

殺されたのだ。

紅次郎の家で、江南は、紅次郎の後輩で少々風変わりな島田とも出会い、興味を持った島田とともにその手紙とふたつの事件を考え始めます。

そして島田とふたり、そのまま夜に現ミステリ研の同級生・守須の家を訪ね、3人でその手紙と事件の真相を探偵のごとく語り合うのでした。

十角館の殺人の前に起きたふたつの事件とは

千織の事件

十角館の殺人より1年以上前、ミステリ研で新年会が催されました。

その三次会で、江南と守須より1級下の中村千織が、急性アルコール中毒になり持病の心臓病の発作を起こし、そのまま死んでしまうという事件がありました。

江南もその新年会には参加していましたが、用があって途中で帰っていて、三次会の千織の事件はその後のことでした。

守須も、江南が帰る時に一緒に帰っているので、千織の事件の場にはいませんでした。

その場にいたのは、島に行っているメンバーです。

青屋敷炎上・謎の四重殺人事件

もうひとつは、十角館の殺人より半年ほど前に起きた、十角館と同じ島に中村青司が建てた青屋敷での事件です。

青屋敷は放火により全焼、中から4人の遺体が発見され、ひとりが行方不明。

遺体は、中村青司とその妻、使用人夫妻の計4人で、島にいた庭師がひとり行方不明になっています。

つまり、届いた手紙の差出人である中村青司は亡くなっているはずなのです。

被害者はどれも黒焦げでしたが、使用人夫妻は縛られた跡があり、斧で頭を割られていました。死亡時刻は火災の前日。

青司の妻は、紐状のもので絞殺され、その後左手首が切断されており、その左手首は見つかっていません。死亡時刻は、火災の2日から3日前。

青司は妻と同じ部屋で、全身に灯油をかけられており、火災時に焼死。

4人全員に多量の睡眠薬が飲まされていて、屋敷全体に灯油がまかれた状態での放火でした。

死亡時刻にずれもあるし、謎の部分が多くあって、判断材料になりそうなものは燃えてしまい、今のところは行方不明の庭師が犯人と目されています。

事件以降、島は無人島となっていて、ミステリ研メンバーはこの謎の事件が起きた現場を見に来たわけです。

十角館での連続殺人事件が始まる

そして第五章、三日目の島で最初の犠牲者が出ます。

犯人がわからないまま、島での犠牲者が続いていくのです。

お互いを疑いながら、次は自分ではないかという恐怖がメンバーに付きまといます。

「十角館の殺人〈新装改訂版〉」読者を驚かせる一行について

終盤の読者を驚かせるある一行が有名な本作ですが、私もまんまと驚かされました。

そのせいで、読了後にもう一度ページを最初に戻って、気になる箇所を確認し直ししたほどです。

そうか、確かにここはそうだな、と見直し作業をしたわけです。

この一行について、綾辻行人さんはあとがきにこう書いています。

「十角館の殺人」のプロトタイプである「追悼の島」の原稿(第29回江戸川乱歩賞に応募して落選した)はそもそも、僕一人の力ではなく、小野不由美女史との共同作業によって初めて完成したものである。メイントリックの発案者も彼女で、だからこそ講談社ノベルス版の「あとがき」では、「結末で読書の皆さんが発するであろう驚きの声を、真に楽しむ権利は彼女のものです」と述べている。いま思い返してみてもやはり、この作品は彼女なくしてはどうしたって生まれえなかった。この場でも改めて、大いなる感謝をー。

「十角館の殺人〈新装改訂版〉」新装改訂版あとがきより引用

小野不由美さんは、綾辻行人さんの配偶者で、ご自身も小説家です。

ご夫婦で小説家として活躍されています。

そうか、この驚きの一行の発案者はもともと奥様だったのか、と知ったのですが、そうは言ってもここまで読者にトリックに気付かせることなく、ぐんぐん読ませる文章はやはり綾辻行人さんのものです。

辻村深月さんが衝撃を受けたというのもわかりました。

古い名作ですが、興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。

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