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「きたきた捕物帖」宮部みゆき著・ネタバレありであらすじと感想

江戸城皇居 読書
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2020年に刊行された「きたきた捕物帖」は、2022年に文庫化されました。持ち運びのしやすさから文庫派の私は、文庫化されてから読んだのですが、挟まれていたチラシの著者メッセージ『生涯、書き続けていきたい物語です。』にドキドキしながら読みました。宮部みゆきさんご本人がそうおっしゃっている物語なら、それはおもしろいに決まっています。

16歳の少年・北一

きたきた捕物帖の主人公は北一。3歳の時に母とはぐれて(結果的に捨てられたのかもしれない)岡っ引きの千吉親分に育てられて16歳に。江戸・深川が舞台の時代劇です。

16歳というと、うちの子たちと同世代なので、まだまだ少年という印象ですが、この時代の16歳ははるかに大人です。立派に仕事をこなしています。

物語は、北一を育ててくれた親分がフグにあたって突然亡くなってしまうところから始まります。深川で、みんなに信頼され頼りにされていた親分が亡くなり、後継ぎは誰が?となるわけですが、本業の文庫売り(文庫は、本や小物を入れる紙製の箱)は一の子分の万作とおたま夫婦が継ぐことになりました。しかし、岡っ引きの方は誰にも継がせないと親分自身が、仕えていた同心・沢井の若旦那に言い残していたらしいのです。万作の下にも北一のほかに子分が4人いましたが、みんながっかりしてそれぞれ出て行ってしまい、文庫売りを手伝っていた一番下っ端の北一だけが、ほかに食べていく手だてがないからと万作夫婦に文庫をおろしてもらって売り子を続けることになります。

実は親分には目の見えない松葉という名のおかみさんがいました。このおかみさんを引き受けようという子分がいません。そして万作の女房おたまはなんと、文庫屋を引き継ぐだけでおかみさんも北一も家から追い出そうとします。万作はいつもだんまり。

そこをうまくまとめたのは、沢井の若旦那と、親分と長いつきあいのある差配人・勘右衛門、通称・富勘です。

親分の文庫は親分のアイデアで季節の美しい絵を蓋に貼った、今までにない文庫で人気がありました。千吉親分の持っていた朱房の十手にちなんで「朱房の文庫」と呼ばれています。その文庫屋を万作夫婦は受け継ぐかわりに看板料をおかみさんに支払い、おかみさんはおかみさん付きの女中おみつとともに別の家で暮らすことに。その家と北一の住む家は富勘が手配しました。

というわけで、北一は万作夫婦の文庫を売りながら生計をたてていくことになります。

そして子分の中で唯一北一だけが、残されたおかみさんの家に通いながら亡き親分のことを思い、親分が生きていたらどうなさるだろう?と考えながら岡っ引きの見習いのようなことを始めるのです。

北一の住む「富勘長屋」

富勘が北一に手配した家は、富勘が面倒を見る「富勘長屋」です。この長屋に住む住人たちと日々顔を合わせることになるわけですが、この富勘長屋も、差配人・勘右衛門も、宮部みゆきさんの別の作品である「桜ほうさら」に登場しているのです。

北一が住むことになる部屋は、桜ほうさらの主人公・笙之介が住んでいた部屋ですし、ほかにも、桜ほうさらの登場人物である武部先生や村田屋治兵衛もきたきた捕物帖に登場します。

きたきた捕物帖がおもしろかったので、桜ほうさらも読みました。おすすめです。

桜ほうさら以外にも、別の宮部みゆき作品にかかわる登場人物がときおり登場します。きたきた捕物帖はまだ続くので、この先また別の登場人物が出てくるのかもしれません。

第一話 ふぐと福笑い

第一話は、千吉親分の死から北一の周囲のあれこれが語られ、その途中でお武家様の青海新兵衛との出会いがあります。新兵衛は、旗本である椿山家の別邸の用人をしているのですが、なにかと北一の手助けをしてくれるようになる人物です。

そして第一話では早速事件が起きます。呪いの福笑いが起こす事件です。宮部みゆきさんは、怪談も書く作家さんなので、それっぽいの来た!という内容です。

ある家の福笑いに、亡くなったお嫁さんの呪いがかかっていて、その福笑いで遊ぶと必ずたたられてしまい、顔に大怪我をするというのです。ずっとしまってあったのを、子どもが見つけて遊んでしまったために、子どもが顔に大火傷を負い、家の人も酷いものもらいで目がはれ上がって治らなかったり、歯痛が治らずやせ細ってしまったりと大変なことになっていると、北一は富勘から聞きます。

呪いを解く方法は、その福笑いを一発で成功させ、できた顔を褒めること。

一発で成功できる名人はいないかということなのですが、「目隠し」という点で思い当たる登場人物がひとり。そう、目の見えないおかみさん・松葉です。予想通りおかみさんがなんとかしてくれるのですが、どうやって成功させるのかは、ぜひ読んでみてください。

北一とおかみさんは、親分が生きていた頃はあまりやりとりがありませんでした。というか、おかみさんはいつも表に出てこないひとだったようで、北一のみならずほとんどのひとがおかみさんのことを詳しく知らなかったのですが、このおかみさんが非常にかっこいい。この先、北一を支えてくれる存在になっていきます。

また、おかみさん付きの女中おみつは、北一と同年代で明るくて素直な、かわいらしいキャラクターです。

第二話 双六神隠し

第二話は、富勘長屋に住む女の子・おかよと同じ手習い所に通う仲良し男の子3人組が、拾った怪しげな双六で遊んだら、とまったマスに書かれていた「神隠し」「金三両」「閻魔の庁」の通りのことが3人に起きてしまうという内容です。こちらは第一話と違い、祟りや呪いなどではなく裏があるのですが、それを北一が探っていきます。

この第二話では、第一話と合わせて、北一が背も小さく痩せていて、足は速いけど頭の毛が薄くて見た目が貧相であることと、まじめで優しく賢い少年だとわかります。

そして、子どもたちの通う手習い所の先生は、桜ほうさらの登場人物である武部先生で、桜ほうさらの主人公・笙之介の名前も出てくるので、桜ほうさらを読んだひとには嬉しいポイントです。

また、おかみさんのすごさもわかります。

親子にもいろいろあるよなあということも。産んだから無条件にかわいいわけではないということを感じて、昨今の親による虐待の悲しいニュースと重ねて、そういう状況にある子どもたちや、そうなってしまった親たちのことを考えました。

第三話 だんまり用心棒

第三話は事件がいろいろ。そして、北一の相棒になるもう一人の「きたさん」こと喜多次が登場します。

最初は、有名な菓子屋の道楽息子の女遊びに関する揉め事から。

この仲裁をすることになった富勘は腰を痛めていたので、北一に付き添いを頼みます。この道楽息子は本当にどうしようもない男なのですが、富勘がうまいこと仕組んでこの男をこらしめて収めます。

北一は、この息子が悪い仲間と組んで富勘に仕返しをしてくるのでは?と案じます。すると富勘は北一を頼りにしていると言うのですが、自分に自信のない北一はうんと言えません。

そんな中、北一は富勘の推薦で沢井の若旦那のお手伝いをすることになります。ある屋敷の床下から、身元の分からない白骨化した古い遺体が発見され、その掘り出しと身元捜しをするというものです。

ここでも、北一のまじめさと優しさがわかるのですが、その間になんと、富勘が攫われてしまうという事件が。富勘が危ないとわかっていながら、何もできなかった不甲斐ない自分を悔やむ北一ですが、富勘を救うため動き出します。

そしてまたまた桜ほうさらの登場人物・村田屋治兵衛が出てきます。

また、事件を追う中で、北一の相棒となる喜多次と出会います。「きたきた」です。

どうやって富勘を救出するのか、白骨化した遺体の身元は?読み応えのある第三話です。

第四話 冥土の花嫁

第四話では、とうとう北一が万作夫婦から離れて独り立ちする決心をします。

万作はともかく、おたまがひどいのです。おかみさんのことも北一のことも悪く言うし、どうやらいろんなひとにもよく思われていない様子です。そのせいか、万作夫婦の文庫屋はうまくいってないような、よくない評判も。

独り立ちするには準備が必要です。北一ひとりではかないません。おかみさんが後押ししてくれる中、北一も今までのつながりをたどって考えます。こういう時、それまでのそのひとの行いが効いてくるもので、手助けしてくれる登場人物たちがそろっていきます。

再び村田屋治兵衛が登場。千吉親分の下で働いていて引退した職人・末三じいさんとその家族、それからお武家様の青海新兵衛。ずっと謎の新兵衛が仕える若様。いろんなひとが手を貸してくれるのは、北一がいい子だからです。

そうやってがんばって成し遂げた初仕事が、祝言の引き出物として納める文庫です。幸せな品物になるはずだったのに、そこで事件が起きてしまいます。

花婿の亡くなった前妻の生まれ変わりだという若い女性が、祝言当日に家族で乗り込んできたのです。その女性は、前妻でなければ知りえないことをいくつも知っていて、花婿はすっかり生まれ変わりを信じてしまいますが、やはりこれには裏がありました。

それを解決するために動く北一。また喜多次も登場します。最後にかっこいいのはおかみさんです。

がんばれ北一

第四話できたきた捕物帖はひとまず終わり。続きは続編「子宝船」なのですが、文庫版を待ちたい私はまだ読んでいません。

でも、きたきた捕物帖を読み終えて思うのは、亡くなった千吉親分は、本当は後継ぎに一番近いのは北一だと考えていたのではないかということです。けれど北一は弟子の中では一番下っ端だしまだ若くてもう少し修行も必要だし、兄弟子たちをさしおいて指名したら揉め事になるのは必然です。

だから後を継がせる気はないと言い残したのではないでしょうか。それをきいた兄弟子たちは残されたおかみさんのもとを去っていき、変わらず守ろうとしているのは結果的に北一だけです。

きっと、ですが、親しかった富勘は知っているか気づいているかしているから北一に期待しているような気がするし、沢井の若旦那も北一の様子を見ながら判断しようとしているような。

そしておかみさんも、北一を支えてくれているのだと思うのです。

がんばれ北一!と思いながら、文庫化を待ちきれない私は、図書館で借りようと思い立ちました。検索してみると、予約待ち17人ということでおおっとなりながらとりあえず予約しました。

早く順番が来ることを期待して待っています。

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