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「あずかりやさん」大山淳子著・人気シリーズ第1弾のあらすじをネタバレありで紹介

あずかりやさん1 読書
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「猫弁」シリーズで知られる、脚本家でもあり小説家でもある大山淳子さんの小説「あずかりやさん」シリーズ「一日百円で、何でもお預かりします」という、明日町こんぺいとう商店街にあるお店「あずがりやさん」を舞台に、そこを訪れるひとたちのストーリーがまとめられています。とても魅力的な店主・桐島透青年や、主要キャラクターとなる相沢さん、白猫・社長はもちろん、あずかりやさんをとりまくモノたちも素敵。愛すべき登場人物(モノ?)が語るほっこり笑って泣ける物語です。今回はその第1弾「あずかりやさん」のあらすじをネタバレありで紹介します。

「あずかりやさん」とは

栃木のうさぎや書店さんのオリジナルカバーでも知られる「あずかりやさん」は、大山淳子さんの人気シリーズです。

1作目の「あずかりやさん」のオリジナルカバーは以下の画像のもので、ふんわりと優しいデザインで物語の雰囲気のまんまです。

「あずかりやさん」シリーズ全体についてや、読む順番、うさぎや書店さんのオリジナルカバーについては以下の記事で紹介しています。

それではここから、目次の順番に沿って各話のあらすじを紹介していきます。

一部ネタバレを含みますので、ネタバレを避けたい方は上記の記事をどうぞ。ざっとシリーズを紹介しています。

第1話 あずかりやさん

最初のお話「あずかりやさん」は、あずがりやさんがどんなお店なのか、店主がどんなひとなのかを紹介することから始まります。その語り手は、お店の入り口でゆれる『のれん』です。

のれんは女性のようで、店主のことが大好きです。

最初に出てくるお客様であるランドセルの女の子・柿沼奈美ちゃんは、1枚の紙をあずけていきますが、その紙が何なのかはわかりません。

店主である桐島とおる青年は目が見えないからです。

この柿沼奈美ちゃん、この17年後にもこのお店にやってきますが、桐島透青年はきちんと覚えています。何年経とうが、お客様の名前と声を絶対忘れないのです。

その17年後のお話は、「あずかりやさん」に収録されている4話目「星と王子さま」に出てきます。

そしてシリーズ全体の主要登場人物となる中年女性・相沢さんが登場します。

相沢さんは、ボランティアで本を点字に訳していて、それを桐島青年に届けに来るのです。

あずかりやさんを始めたきっかけ

あずかりやさんは、一日百円でなんでもあずかるというお店です。そのお店を始めたきっかけを、一部始終を見ていたのれんが語ります。

その時、桐島青年は17歳。

両親はいますが訳あって別々に暮らしています。

ある夜、知らない男が店にやってきます。

あずかりやさんの店舗は、かつて桐島青年の祖父、母と続いて和菓子屋を営んでいました。でもその男がやってきた時は、桐島青年ひとりが住む家です。

その男・真田幸太郎さなだこうたろうは、10枚くらいのお札の入った封筒とともに新聞紙の包みを桐島青年にあずけます。

2週間後に取りに来るからあずかってくれ、頼む、と。

もし取りに来なかったら、その包みはお前にやると言って。

しかしその3日後、ラジオから流れるニュースで、その真田幸太郎は国会議員を銃で襲った暴力団員で、逮捕されたが銃は見つからない、ということがわかります。そう、あずがった包みはその銃だったのです。

でも、のれん曰く、そのあずかりものをしたことで、桐島青年は「生き始めた」ようなのです。

銃のことを通報することもなく、桐島青年は「あずかりやさん」を開業することにしました。

一日百円で、あずける時に期限を決めてその日数分の料金を前払いし、期限より早く受け取りに来た場合は差額は返金されません。期限を過ぎても取りに来ない場合は、あずけたものはあずかりやさんのものになります。

桐島青年のお母さんは

ある日、あずかりやさんに中学生の男の子が、こげ茶色の鞄をあずけに来ます。一日分の百円で。

その鞄はその少年のものではなく、赤い服を着た咳をしている女の人に頼まれて持ってきたと言います。

桐島青年には思い当たるひとがいました。お母さんです。

桐島青年が目が見えなくなったのは、7歳の時の交通事故が原因でした。そしてその時車を運転していたのがお母さんです。

喘息もちで咳をしていて、いつも物静かだけど、和菓子屋を毎日まじめに切り盛りしていました。

お母さんは、自分のせいで息子を盲目にしてしまったと自分を責めていたのでしょう。家に居続けるのがいたたまれなくなったのか、ある時家を出て行ってしまいます。

そのお母さんがあずけにきた鞄。次の日になっても、お母さんは取りに来ません。鞄は桐島青年のものになります。お母さんは最初から、その鞄を息子にあげたかったのです。

相沢さんの正体とお母さんの鞄

お母さんが現れないまま、ある日相沢さんがやってきます。点訳に使っていたタイプライターをあずけに。

どうやら相沢さんは、何か目の病気があるようでした。本当は手術が必要なようです。

そして、相沢さんは桐島青年に身の上話を始めます。

実は、相沢さんは相沢さんではありませんでした。真田幸子さなださちこさんという名前でした。

あの真田幸太郎の妹だったのです。

真田兄妹は、親が誰かもわからない中で育ちました。貧しくて、学校もろくに通えず、兄は悪い道に入ってしまいます。

それでも妹想いの兄でした。学がない分、いいように利用されていた面もあったようで、あの事件の裁判で語られる内容はほとんど理解できないまま刑が確定しました。

面会に行った妹に、兄は、逮捕前いいやつに会えたんだと言いました。自分との約束を守ってある大事なものをあずかってくれているのだと。明日町にある「さとう」というのれんをかけた店だと。

のれんには、ひらがなで「さとう」と書かれていることを、桐島青年はその時相沢さんに聞いて初めて知ります。

桐島なのに「さとう」というのれんを和菓子屋時代からかけていたのは、戦後、砂糖が貴重でみんなが甘いものに飢えていた時代、当時の店主が「さとう」と自分で染めたのでした。

その後、真田幸太郎は獄中で亡くなってしまいます。

相沢さんは、兄の残したものが気になりましたが、また兄が騙されているのではないかと疑い、あずかりやさんの場所を確かめると、まずは点字の勉強をしてボランティアとして桐島青年に近づいたのでした。兄が最後に信じた人に会ってみたいという思いにもなっていました。

「うそをついてごめんなさい」と謝る相沢さんに、桐島青年は笑顔で「遺品はお渡ししましょう」と言います。

遺品は、そう、新聞紙で包まれた犯行に使われた銃です。

しかし、桐島青年は別のものを持って現れ、のれんを驚かせます。

なんと、お母さんが持ってきてくれた鞄を、妹に渡すつもりだと言ってお兄さんがあずけたと言って、相沢さんに渡してしまうのです。渡す前に大事そうに鞄を抱きしめてから。

中身は大量のお金でした。

のれんは「店主はどうかしています」と叫びたい気持ちになります。

お母さんが苦労して必死にためたであろうお金をあげてしまうなんて!

でもすっきりした顔の桐島青年を見て、のれんは思うのでした。

きっと、店主はお母さんの想いを受け取って満足し、その満足感は誰かに分けてあげられるほどに大きかったのだと。

このあたりのシーンは、相沢さんの身の上話から続けて、ぜひ実際に読んでいただきたいところです。

この後、冒頭の柿沼奈美ちゃんが、あずけた紙を受け取りに現れ、のれんは、柿沼奈美ちゃんがまた来るでしょうか、来ないかもしれません、相沢さんはタイプライターを受け取りに来るでしょうか、赤い服の女はもどってくるでしょうか、と続けます。

そして最後、以下のようにこのお話は終わります。

あるかないかの可能性のために、店主はここで待っています。あずかりやさんは、待つのが仕事ですからね。

おそらくここは、みんなの帰る場所です。

いつまでも変わらずに、待ってくれている場所なんです。

「あずかりやさん」大山淳子・ポプラ文庫より

これが、あずかりやさんシリーズ全体に通じるものだと思います。

第2話 ミスター・クリスティ

クリスティとは、『自転車』です。第2話の語り手でもあります。

クリスティは、有名メーカーから独立したトップデザイナーが、亡き妻の名前をつけて作った貴重な自転車です。とてもかっこよくて高価な自転車で、ある自転車屋の親父に大事に手入れされながら、店の天井から吊るされて展示されていました。

その自転車を、高校入学祝いにお父さんに買ってもらった少年が笹本つよしくん。実は、第1話で、桐島青年のお母さんの鞄を代わりにあずけに来た少年でした。

ところがつよしくんは、せっかく買ってもらったクリスティを、あずかりやさんにあずけに来ます。店主の桐島青年は、つよしくんがあの時の男の子だとすぐにわかります。目が見えなくても声を覚えているのです。

なぜつよしくんはクリスティをあずけたのか。

事情がわからないクリスティは困惑します。

そして次に現れたつよしくんは、カゴが変形していて音のなる、あずき色の古い自転車をひいてきました。そしてこんどはそのあずき色の自転車をあずけ、クリスティを受け取りました。

一緒に高校へ行くクリスティは喜びますが、なぜかまたつよしくんはクリスティをあずけ、こんどはあずき色の自転車で出て行ってしまいます。

そんな日が繰り返される中、クリスティは、桐島青年が古いあずき色の自転車を丁寧に手入れしていることや、その手の感覚から、この店主は誠実だと感じるようになります。

そして桐島青年は、毎日あずけてお金を払うつよしくんを心配になり、「よかったら相談にのりますよ」と言います。訳ありのようだと察したのでしょう。

つよしくんの両親は離婚していて、つよしくんはお母さんが育てています。

高校通学に自転車が必要になって、お母さんはいろいろ当たって、古い型のあずき色の自転車を譲ってもらいました。正直なところ、つよしくんにしてみれば、その自転車は学校に乗っていくには恥ずかしいものでしたが、お母さんがお金のない中一生懸命手配してくれたものだということはわかっていました。

だから、お金のあるお父さんがクリスティを買ってくれて、そのかっこいい自転車で高校に通えることを嬉しく思う反面、お母さんに申し訳なくて、あずき色の自転車を愛せない自分が好きになれなくて、悩みながらもお母さんに言えずにいました。

そこで、毎日、その2台の自転車を代わる代わるあずかりやさんにあずけて、家からあずかりやさんまではあずき色、あずかりやさんから高校まではクリスティ、と乗り分けていたのです。

桐島青年は、じっくり聞いてくれます。そして、あずき色の自転車を恥ずかしいと思うつよしくんの気持ちにも共感し、高いお金を払って買ってくれたお父さんもつよしくんに一生懸命なんだと思うと言い、「お母さんに本当のことを話せば、きっとクリスティのことを喜んでくれると思いますよ」と言います。

つよしくんは、もちろんお母さんは喜んでくれる、でも僕は、僕が嫌なんです、と答えます。

それから一週間後、高校の駐輪場でのこと。

クリスティはいつも通り、そこでつよしくんを待つのですが、クリスティの隣にいつもとめられている自転車は、ピンクのくたびれたママチャリ。しかも小さい子用のシートがトップについていて、高校生用とは思えない自転車です。

そこでつよしくんとクリスティは、そのピンクのママチャリの持ち主を知ります。

なんと別のクラスのつよしくんでも名前を知っているほどの有名な美人・荒井さん

荒井さんは、いつも隣のクリスティをかっこいいと思っていたようですが、自分のくたびれたママチャリに誇りを持っています。

そのママチャリは、お母さんからのお下がりで、かつては自分もその子ども用シートに乗っていたことがあり、今もシートを外さないのは、高校帰りに保育園にいる妹を迎えに行くからだと言います。

そしてそれが自分の「任務」なのだと胸を張るのです。

その荒井さんとのやり取りの後、つよしくんはクリスティと海に向かいます。

そしてある決心をしてあずかりやさんへ行きました。

つよしくんがその後どうしたか、クリスティがどうなったかは、ぜひ読んでみてください。

私事ですが、かつて私もつよしくんと似たような経験をしているので、この「ミスター・クリスティ」はとても印象に残ったお話です。

第3話 トロイメライ

このお話の語り手は、かつて和菓子屋さん時代に和菓子を並べていた『ガラスケース』です。話し方からすると中年男性だろうか?もしかしたら初老?まだ働き盛りと言う雰囲気もします。

ガラスケースはもう長いこと自分の中身が空っぽで虚しい日々を送っていました。これはそのガラスケースの中に入れられることになるあずかりもののお話です。

ある日あずかりやさんにやってきたのは、ガラスケース曰く全身ねずみ色のじいさん。

背筋をしゃんと伸ばし、グレーのスーツとハットの紳士です。その紳士は自分はある社長の執事で木ノ本亮介きのもとりょうすけと名乗りました。

ガラスケース曰くねずみじいさんは、封筒をあずけていくのですが、そのままリピーターになります。封筒をあずけて2週間後に受け取りに現れ、また2週間後に封筒をあずけに現れます。

ねずみじいさんは、それから3か月の間あずかりやさんに通い続け、そのたび桐島青年と雑談をしていきました。

ある日、40歳くらいの男があずかりやさんにやってきて、「木ノ本があずけたものを渡してくれ」と言ってきます。

桐島青年は、「あずかったものを勝手にどうこうできないし、あずかったかどうかも答えられない」と答えます。

渡してくれるまで帰らないと居座る男に、桐島青年は話だけ聞くことにします。

その男の父親は大企業の社長で、体を壊して入院中。社内で社長が後継者を指名した遺書を書いたという噂が流れる。その遺書のありかを探ったが、執事の木ノ本がこの商店街によく車で来ていることがわかり、商店街の中で遺書を隠すとしたらこのあずかりやだろうと見当をつけたと。

忙しい社長の父と、あまり遊んだ記憶のない男は、父に認めてもらいたくてがんばったようですが、どうやら噂を聞いて自信が持てない様子。

桐島青年は、遺書なんてどうでもいいではないですか、今お父さんは生きているのだから会えばいい、と答えます。そして男は店を出ていきます。

しばらく、その男もねずみじいさんも現れません。封筒はちょうど引き取りに来た後だったので、あずかっているものはありませんでした。

そんな頃、店に三毛猫がやってきて、小さな白い赤ちゃん猫を置いていきます。桐島青年は、冷たくなった小さな赤ちゃん猫のために一週間店を閉めて面倒を見ます。この猫が、あずかりやさんの表紙に登場する白猫・社長です。

そのまた一か月後、太った男があずかりやさんにやってきました。

トロイメライを奏でる立派なアンティークのオルゴールを、条件付きで50年あずかってほしいと。売れば六本木にマンションが買えるほどの一品です。ある方の遺言で、このオルゴールを売らずにそばに置いて欲しいと言うのです。

桐島青年は、いつも通り、お客様に名前を伺います。その男は答えました。

木ノ本亮介と申します」

「木ノ本さんはあなたではない!」とびっくりする桐島青年でしたが、まもなく気付きます。

木ノ本と名乗ったあのねずみじいさんこそ、大企業の社長だったのだと。

そして、今目の前にいる男が本物の執事の木ノ本亮介なのだと。

そして、本物の木ノ本亮介さんは、社長のことをきちんとあなたにお伝えしたい、と言って語りだします。

そしてそのオルゴールは、空っぽで虚しかったガラスケースの中に入ることになり、木ノ本亮介さんとの会話の中で、白猫の名前が「社長」と決まります。

ねずみじいさんの想いと、オルゴールのこと、息子のこと、なぜ白猫の名前が社長なのか、などなどは本を読んでみてくださいね。

なお、オルゴールのトロイメライを聴いた時、桐島青年が感慨深げにする様子が書かれていますが、その理由は、あずかりやさんシリーズ第2弾「桐島くんの青春」の中の最終話「海を見に行く」で明らかになります。

第4話 星と王子さま

このお話は、不思議過ぎて結局よくわからなかったというのが正直な感想です。

このお話の語り手となるのは、第1話であずかりやさんに来たランドセルの女の子・柿沼奈美ちゃん。

その17年後、当時10歳だった彼女が、大学を卒業して結婚し5年経っています。

実家に帰ってきた奈美ちゃんは、懐かしいあずかりやさんにやってきます。

ところがそこには店主の姿はなく、代わりにとうもろこしのひげみたいな、薄茶色のくせ毛の若い男がいます。本を読んでいました。法事で喪服を着て出かけた店主に代わって留守番をしているらしく、名前は笹本つよし

ああ、クリスティのつよしくんです!

奈美ちゃんとつよしくんはお互いにあずかりやさんに来た話をし、同時期に来ていたことがわかります。つよしくんは、例のお母さんの鞄を代わりにあずけたときのことや、クリスティのことを話します。その後も、4年に1度は来ているそうです。

帰ろうとした奈美ちゃんに、つよしくんは「あずけないんですか?」と聞きます。奈美ちゃんは留守番の男にあずけるのは不安です。

そこでつよしくんは提案しました。お互いにあずけあいっこすることを。つよしくんは、読んでいた本を奈美ちゃんにあずけ、奈美ちゃんがあずけようとしていた封筒をつよしくんがあずかりました。

つよしくんの本は「星の王子さま」です。外箱が傷んでいて、図書館のシールが貼られています。

奈美ちゃんがあずけた封筒の中身は、離婚届でした。

奈美ちゃんの夫は、ほかの女性との間に子どもができたそうなのです。奈美ちゃんは、そんなことがあって実家にひとりで帰ってきたのでした。

実は、10歳の時に奈美ちゃんがあずかりやさんにあずけた紙は、両親の離婚届でした。その後両親は離婚せず、奈美ちゃんはあずかりやさんにあずけたから離婚しなくてすんだのかも、と思っています。

離婚しなかった理由は、その後お母さんから聞くのですが・・・。

あずける期間は一週間だったはずなのに、その夜、つよしくんから電話がかかってきて、本が必要になったからすぐ返して欲しいと言われます。

不満に思いながらも、夜の公園で待ち合わせをしてお互いのものを返します。

次の日、あずかりやさんを訪ねた奈美ちゃんは、17年前と変わらないたたずまいの店主・桐島透に会います。店主は17年前でもやっぱり柿沼奈美ちゃんを覚えていて、奈美ちゃんはびっくりします。

ところが奇妙なことがおこります。

つよしくんに返したはずの「星の王子さま」はガラスケースの中にあり、店主はたしかに法事でお店を休んだけれど、誰にも留守番は頼んでいないと言います。

「星の王子さま」をあずけたのは女性のお客様で、期限までに取りに来なかったので店主のものになったとのことで、笹本つよしというお客様はたしかにいるけれど、しばらく来ていないそうなのです。

奈美ちゃんは、もしかしたら泥棒だったのかと疑いますが、店主は何もなくなっていないから大丈夫と言い、「わたしに内緒で留守番をしてくれたのでしょう」と。

奈美ちゃんが会ったつよしくんは本当につよしくんだったのか

さて、私は考えました。奈美ちゃんが会った笹本つよしくんは本当にあのつよしくんだったのでしょうか?赤い服の女の鞄のことを知っていたし、クリスティのことも知っていたから、たぶんつよしくんだろうけれど、内緒で留守番をしたり、店主のものを勝手にひとにあずけたりするでしょうか?

そして、その後奈美ちゃんが、つよしくんのとうもろこしのひげのような髪が、星の王子さまにそっくりだと気付きます。

前後してしまいますが、この後続く第5話「店主の恋」に登場する女性・石鹸さんが、その星の王子さまの本をあずけたひとなのです。時系列的には4話と5話は、5話の方が先なのです。

そしてその石鹸さんは、5話の中でおそらく事故にあっています。さらに言えば、生死も不明です。

それから、店主が喪服で出かけた法事と言うのは、誰が亡くなったものだったのでしょう?

また、つよしくんは腕時計をしており、奈美ちゃんにその時計は「親父の形見」だと答えます。あのクリスティを買ってくれたお父さんが亡くなったのでしょうか。

考えるとなんだか、実はつよしくんの姿を借りた王子さまだったり、誰か亡くなったひとの魂が宿ったものだったり、といろいろ考えてしまうのですが、それにしては奈美ちゃんとのやりとりが電話を使ったりとやけにリアルで、やっぱりつよしくんだったのかなと。

なので、結局今でも不思議過ぎてよくわからない物語なのです。そのうち続編で解明されるのでしょうか。

・・・話を戻しまして、奈美ちゃんは、結局離婚届をあずけずにそのまま役所に提出します。奈美ちゃんが前向きに元気に進んでいくといいなと思います。

第5話 店主の恋

前述したように、第5話は第4話に登場する本「星の王子さま」をあずけに来る女性の石鹸さんのお話です。

語り手は白猫の社長。実は社長は女の子です。

そしてこのお話で相沢さんが復活したのがわかります。手術を受けて目が治り、点字ボランティアを続けていて、変わらず桐島青年を訪ねてきています。相沢さんという名前が馴染んでしまったので、本名でなくていいとのことで、今まで通り相沢さんです。

ある日、石鹸の香りのする美しい女の人が店にやってきました。ちょっとしたハプニングがあり、桐島青年の胸がどきどきしていることに社長は気付きます。

そこで社長は店主の恋だと思うのです。

この時、桐島青年は37歳。まだ青年でいいのかどうかわかりませんが、社長曰く清潔で美しい顔立ちの男性のようです。

石鹸さんは、「星の王子さま」をあずけたいと言った後、少し店主と話をして、ガラスケースの中のオルゴールを聴かせてもらった後、自分の本もガラスケースに入れてもらうことにしました。

石鹸さんは子どもの頃、戸籍や住民票がなかったようで、図書館で本を借りることができませんでした。そしてある日、「星の王子さま」を盗んでしまったのです。

ですが罪悪感から読むことも捨てることもできないまま持ち続けました。

その後、戸籍も手に入れ結婚が決まった石鹼さんは、本を返そうとしますが、かつて住んでいたところにあった図書館はなくなっていたのです。

石鹸さんは、結婚式が終われば自分にも居場所ができて、その本と向き合える気がすると言って、それまであずかってほしいと言うのでした。

そして、石鹸さんと社長について話す中で、社長が女の子だと店主は初めて知ります。

そんなこんなで店主はめずらしく、お客様の名前を聞き忘れるというミスをします。

社長は、店主にとって初めての恋で同時に失恋だったのだからしかたない、と代わりに石鹸さんを呼び止めようと後を追います。

ところが、石鹸さんの後を追う社長は、商店街を抜けた先の横断歩道で車にひかれそうになってしまうのです。

石鹸さんはどうなった?

このお話の語り手は、白猫の社長のため、すべてが社長の目線です。

横断歩道を渡り切った石鹸さんは、社長の声に気づき振り向いて、車にひかれそうになっている社長にびっくりした顔をして叫びます。

そして社長が怖くて固まってしまった時、石鹸さんが社長をつかんで空に放ります。

社長は無事に着地しますが、社長には石鹼さんがどこに行ったかがわかりません。

ただ、車の下をのぞき込む運転手や、誰かの悲鳴、救急車を呼ぶ声が聞こえます。

何もわからない社長は、そのまま帰ります。

石鹸さんが受け取りに来る日、タバコ屋のおばあさんがあずけものをしにきただけで、石鹸さんは現れませんでした。

しばらくして相沢さんがやってきて、そのタバコ屋さんの話と、横断歩道で事故があった話を店主は聞きます。

そして、石鹸さんの「星の王子さま」に気づいた相沢さんは、店主が「星の王子さま」を読んだことがないと知ると、何回か店に通って音読をしてくれます。

ここの、タバコ屋さんの話と、星の王子さまを読んでもらった後の桐島青年の行動が、なんとも切ないのでぜひ読んでみてください。

そして最後に社長は、石鹸さんがいなくなったのは自分のせいかもしれないと思いながらも、実は石鹸さんは無事でもどってくるかもしれないと、店主と一緒に待ち続けるために長生きしようと思うのでした。

エピローグ

エピローグも続けて、社長が語り手です。

社長はすっかり年をとっていて、視力が衰えており、とうとう店主と同じく全盲になります。

そして最後、石鹸さんがどうなったかを読者の判断にゆだねるような形で終わります。

のれんが揺れた。そして石鹸の匂いがした。

わたしと店主は同時に石鹸さんを見た。

「あずかりやさん」大山淳子・ポプラ文庫より

で終わるのです。

せめて何か言葉を発していたなら、それが石鹸さんかどうか店主が聞き分けるでしょうけれど、「見た」だけで終わりなのです。

特別収録 ひだりてさん

「ひだりてさん」の語り手も白猫の社長です。

社長が、桐島青年のことを「30年くらい生きている」と言っているので、「店主の恋」よりだいぶ前のお話です。

相沢さんも登場します。なかなかの活躍です。

このお話は、あずかりやさんにあずけられた、まねき猫にまつわるお話です。

警察まで出てきて、ちょっとした事件になります。ほかのあずかりものに関するお話も交えながら、七日間の出来事が語られます。

最後は、店主の桐島透が機転を利かせたことにより、どのひとにとってもハッピーエンドで納まります。桐島透青年の頭の良さと思いやりがよくわかるお話です。

この最後のぴたっとしっくりはまって終わる感じは、私が初めて出会った大山淳子さんの作品であるドラマ「猫弁~死体の身代金~」を思い出させます。このドラマについては以下の記事でふれています。

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