脚本家でもあり小説家でもある大山淳子さんの小説「あずかりやさん」シリーズは、2024年11月現在5冊目まで出ている人気シリーズです。その最新刊までの順番をおさえつつ、あずかりやさんの魅力を紹介します。このあずかりやさんを猛プッシュした栃木のうさぎや書店さんによるかわいい文庫版オリジナルカバーも目を引きます。
「あずかりやさん」とは
明日町こんぺいとう商店街にあるお店「あずかりやさん」を舞台にした物語です。
店主である桐島透は、目が見えません。7歳の時の事故が原因でした。
17歳の時、あるできごとをきっかけに「お金をもらって何かをあずかる」という商売を始めました。両親はいますが別々に暮らしており、たったひとりでお店を営んでいます。
「一日百円でなんでもおあずかりします」というそのお店には、本当にいろいろなものがあずけられます。
ときには大型ごみを処理するのに都合よく使われたりすることもありますが、桐島青年はめげずに誰に対しても誠実に向き合います。
あずける側にしてみると、店主の目が見えないため、あずけたものを見られることもなく、自分の顔も知られずにすむので利用しやすいという利点もありました。
目が見えないとは言え、桐島青年はおそろしい記憶力と良い耳の持ち主でした。お客さんの名前と声を絶対忘れることはなく、あずける期間の約束も忘れません。そして責任感が強く、すべてのものを丁寧にしっかりあずかり、お客さんの情報は絶対にほかに漏らしません。
桐島青年のあずかりやさんは、たいした宣伝もしないのに着々と信用を積み重ね、様々なひとがやってくるようになります。
あずかりやさんの魅力
あずかりやさんは、あるあずかりものに関する短編をいくつかあつめて1冊になっていて、時系列がバラバラで、桐島青年が17歳から始めたお店を舞台に、桐島青年が30代とおぼしき話もあります。
前に語られた話の中で登場した少女が、いくつか後の話で大人になっていたり、ある話ですでにあるあずかりものの持ち主の話が後から語られることもあります。
各話で違う語り手
あずかりやさんの各話の語り手は実に様々です。
第一話の語り手は、あずかりやさんの入り口でゆれる「のれん」です。
語り手は、モノであることが多いですが、話によっては人物であることもあります。
この語り手たちがユニークでおもしろく、次は誰が(何が)語ってくれるのかな?と楽しみになります。
店主・桐島透の人柄
店主の桐島透くんは、多くを語らずミステリアスですが、常に背筋をのばし、髪を整えて清潔感がある美青年のようです。
何があっても冷静で穏やか、落ち着いた優しい口調で、子どもが相手でも丁寧です。
お客さんに対して、深く踏み込んでくることはありませんが、お客さんの話を最後までじっくり聞いてくれます。下手にアドバイスのようなことは言いません。でも、あずかりやさんとして自分がそのひとのためにできることは言います。また、ちょっと別の視点のひとことをくれたりもします。
いずれにせよ、あずかりやさんのモットーともいえる「なにごとにも誠実」というのが、彼のすべての言動にあふれています。
だいぶ後の話で判明する真実
ある話であずけられたものが何だったのかわからないままにサラッと終わった話の、ずっと後の話でそれについて判明したり、ある話の登場人物のその後がずっと後でわかったり、時系列がバラバラであるがゆえの後からわかるつながりが時々出てきます。
そうすると、前巻を読み終えてだいぶ経っているので細かい内容を忘れていて、おや?と思って読み返したりします。
うさぎや書店さんのオリジナルカバー
あずがりやさんの文庫版にかけられたかわいいオリジナルカバーも魅力です。もちろん元々の表紙のイラストも、あずかりやさんの世界観があふれていてとても素敵ですが、うさぎや書店さんのオリジナルカバーには、書店員さんたちの情熱が込められています。

栃木にある本屋さん「うさぎや」さんが、「あずかりやさん」をたくさんのひとに読んでもらいたいと始めたカバー作りやのれん仕掛けなどの猛プッシュで、あずかりやさんは驚くほど短期間での売り上げ記録を作ったのだそうです。
本屋大賞という賞が大きく取り上げられ、話題になるように、毎日多くの本を取り扱い売ろうとしている書店員さんたちの情熱は本当にすごいですよね。
あずがりやさんのオリジナルカバーは、ふんわりとあたたかい色彩で、物語の雰囲気が存分に表現されていると思います。
いろいろな年代の想いがあふれる物語
あずがりやさんにはいろいろなものがあずけられますが、そのためいろいろな立場の登場人物が描かれます。
ランドセルを背負った子から、中高生、結婚を考える若者、子育て中のひと、死を間近にしているひと。
学校で困ったことがある子、障がいのあるひと、仕事や人間関係に疲れたひと、子どもが欲しいのにできないひと、犯罪を犯してしまったひと、恋に破れたひと、離婚を考えるひと、事情のある兄弟、子育てに疲れてしまったひと、などなど。
笑えるものから泣けるものまでありますが、どこかにあたたかなほっこりしたものがあります。
何年か経って読み返すと、感じ方が変わりそうな気がする物語です。
第1弾 あずかりやさん
あずかりやさん1冊目は、文庫版のみ短編「ひだりてさん」が収録されています。
第1話で、あずかりやさん全巻にわたっての主要登場人物となる相沢さんが出てきます。とても魅力的な中年女性です。
第3話で、表紙の絵に描かれる白猫・社長が登場します。
目次
- あずかりやさん
- ミスター・クリスティ
- トロイメライ
- 星と王子さま
- 店主の恋
- エピローグ
特別収録 ひだりてさん
上記の記事で、一部ネタバレありであらすじを紹介しています。
第2弾 あずかりやさん~桐島くんの青春~
第2弾の最後の話「海を見に行く」は、語り手が店主・桐島透くんです。
あずかりやさんを始める前の学生時代が書かれており、自宅へ帰ろうと思うに至る出来事がわかります。
目次
- プロローグ
- あくりゅうのブン
- 青い鉛筆
- 夢見心地
- 海を見に行く
上記の記事で、一部ネタバレありであらすじを紹介しています。
第3弾 あずかりやさん~彼女の青い鳥~
目次
- ねこふんじゃった
- スーパーボール
- 青い鳥
- かちかちかっちゃん
- 彼女の犯行
上記の記事で、一部ネタバレありであらすじを紹介しています。
第4弾 あずかりやさん~まぼろしチャーハン~
目次
- ラブレター
- ツキノワグマ
- まぼろしチャーハン
- 高倉健の夢
- 文人木
上記の記事で、一部ネタバレありであらすじを紹介しています。
第5弾 あずかりやさん~満天の星~
目次
- プロローグ
- 金魚
- 太郎パン
- ルイの涙
- シンデレラ
- あとがき
上記の記事で、一部ネタバレありであらすじを紹介しています。
「猫弁」シリーズも人気
大山淳子さんの小説ではほかにも「猫弁」シリーズという人気シリーズがあります。
もともと私が大山淳子さんを知ったのは、第3回TBS・講談社ドラマ原作大賞を受賞した「猫弁~死体の身代金~」が2012年にドラマ化されたものを見た時でした。
主演は吉岡秀隆さん、ヒロインは杏さん、弁護士である主人公の事務所事務員を演じたのはキムラ緑子さんでした。
登場人物たちのつながりが判明した時の感動や、その決着のしかたが何とも言えずあたたかくて忘れられないドラマです。当時、録画したものを何度か見直しました。
このドラマは改題して小説にもなっています。「猫弁~天才百瀬とやっかいな依頼人たち~」です。
この猫弁が好きだったから、あずかりやさんもきっと好きだと期待して購入し、結果とてもお気に入りのシリーズになっています。
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